――――はず、だったのに。







「あれ、綾月くん?」


「ん? あ、香恋ちゃんじゃん! 久しぶり!」



翌日の昼休み。



いつもの購買に昼食を買いに来ると、聞き覚えのある男女の声が聞こえてきた。



声のした方へ目を向けると、予想通り、香恋と綾月が惣菜パンの棚の前でテンション高く会話している。



なんとなく見つかりたくなくて、咄嗟に商品棚の陰に身を隠した。



香恋と購買で会うことはよくあったけど、綾月がここにいるのを見るのは、初めてだ。



「綾月くんもいつもここで昼ご飯買ってるの?」


「いや、いつもはF校舎の購買なんだけど、今日はそこが休みだったからね」


「そっかぁ。確か法学部だよね。綾月くんと出会わないなーって思ってたけど、校舎遠いもんねー」



他愛ない会話に耳をすませる。



綾月は私と恋人のフリをしていること、思い出しただろうか。



香恋の前でボロが出ないか、聞きながら手に汗が滲む。



「そうなんだよなぁ。法学部だけ端に追いやられて仲間ハズレ」


「ははは、じゃあ紫映とも校内で会うの大変だね」



急に、私の名前が出てきて、ヒヤッと心臓が固まった。



そっと棚の端から顔の上半分だけを出して、二人の様子を覗き見ると、綾月は、ははは、と笑っている。



「そうだな。でもそのぶん放課後とか休日に会う楽しみが増える」



そう上手く言った綾月の言葉を聞いて、恋人のフリをしていたことを思い出してくれたんだ、とほっと胸を撫で下ろした。






瞬間。





「あれ、雪瀬ちゃん? 何してんの?」






不意に背後から声がかかり、落ち着いていた鼓動が大きく跳ねた。