「ごめん、雪瀬」



綾月の声が、落ちていく思考を止めた。



ポンポン、と頭に温かな重みを感じて、俯けていた視線を上げると、綾月がニッと笑う。



「楽しいこと話そうぜ!」



つられて笑い返して頷くと、綾月が「そういえばさー、」と窓の外に視線を向けた。



「中学ん時は、雪瀬すぐバス酔いしてたよな」


「えー、それ楽しい話なの?」



冗談ぽく笑いながら言うと、綾月が私を見てもう一度ニッと笑った。



「そのおかげで雪瀬と二人きりになれたからな」



俺はちょっと嬉しかった、と付け加えた綾月に、何て返したらいいかわからなくて、はは、と笑ってみせた。



あの遊園地の告白以降、そんな態度も言葉もなかったから、不意のことで脈が上がる。



「バスで酔わなくなったんだな。ちょっと残念」


「ざ、残念って酷いなー。バス酔いって結構しんどいんだよ」



なんとか会話を繋げて、いつもの友達ノリを作ると、ははっと吹き出すように綾月が笑った。



「あ、そうだ。俺すげーの見つけたんだけど食べる?」


「え、何?」


「これこれ。焼肉味のチョコ」



ポケットから取り出された袋を見ると、何ともグロテスクなパッケージ。



「……なんか、美味しくなさそう」


「だろ? だから先に雪瀬に毒味してもらおうと思って」


「え! 無理だよ! 絶対無理!」


「ちょうど二個あるから一個ずつな」


「えー……」



焼肉味のチョコは嫌だけど、いつもの友達ノリに戻ったことに内心ホッとしていた。



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