そんなある日の放課後のこと。



忘れ物をしたと言って教室に戻った紫映がなかなか帰ってこないから、心配になって教室へ向かうと、教室の中からトモコ達の話し声が聞こえた。



「ね? ヒドイよね?」

「だから雪瀬さんも気をつけた方がいいよ?」



何の話をしているのかは、すぐにわかった。



トモコ達が紫映に、あたしと二股かけられてた話を教えてる。



怖くて怖くて、全身が震えた。



トモコに悪口言われてることが怖いんじゃない。紫映がそれを知ってしまったことが。



紫映だけは失いたくなかった。



紫映にだけは嫌われたくなかった。



涙が勝手に溢れて止まらなくて、崩れるようにその場にしゃがみ込んだ。



「わ、私は……」


「え、雪瀬さん!?」



ガラガラっと勢いよく教室のドアが開いて、紫映が中から飛び出した。



あたしにも気付かず、脇目も振らず走っていく紫映の背中。



今でもあの光景は目に焼き付いている。



もう駄目なんだって、絶望だけが残って動けなくて。



しばらくして教室から出てきてあたしに気付いたトモコ達にも何か言われたような気がしたけど覚えてない。



ただ、その少し後に、携帯の着信音が鳴って、見たら紫映からだったから、思わず切った。



何を言われるのか、怖くて。



立ち上がることもできずに、ただ、震えていた。