放課後そそくさと教室を出て、階段を降りているところだった。



紫映から話しかけてくれたのはそれが初めてだったと思う。



久しぶりに誰かに声をかけられた。



胸が飛び上がるほど嬉しかった。けど。



どこのグループにも属していない彼女は、たぶん何も知らない。



もし知ってしまったら……どうなる?



「……何にもないよ?」



これ以上、孤立するのは怖い。



無理やり明るく振る舞った。



「ねぇ、雪瀬さん、よかったら一緒に帰ろうよ」


「うん……帰ろ」



この日、初めて、紫映と一緒に帰った。






それから、あたしは休み時間も放課後も紫映と一緒にいた。



はじめは孤立から逃れるただの逃げ道だったはずが、紫映の隣は居心地のいいあたしの居場所になっていた。



お互いに名前で呼び合うようになって、紫映のいろんな一面を知って、紫映と一緒にいる時間が楽しくて居心地よくて、大好きになった。



今まで特定の友達なんていなかったあたしが、初めて“親友”と呼びたくなるような子。



それまでの、彼氏もいてクラスメートみんなと仲良かった頃よりも、ずっとずっと楽しかった。



紫映だけは、失いたくないと思った。