その瞬間、私の視線に気付いた彼が、ゴクリと喉にケーキを通して視線を上げた。



「遠慮しなくていい」



ポツリと落とされた低い声に、一瞬何のことかわからずに「え?」と声を漏らす。



だけどすぐに、遠慮せず食べろという意味だとわかって、「あ、」と言葉を足した。



「ありがとうございます」



言って視線を下ろすと、自分の前に置かれたチーズケーキが目に入って頬がほころぶ。



私も甘いものが好き。


甘いものの中でもケーキが一番好き。



フォークを持ち上げて、掴んだ指先に小さく力を入れた。



「あの、甘いもの、好きなんですか?」



言って、フォークをケーキの上に置いた瞬間に、フワリと柔らかく沈んでいく。



「あぁ、まぁな」



短い返事に、頬の奥が緩んだ。



やっぱりそうなんだ。



「意外ですね」



思わず笑みをこぼしてしまいそうになるのを誤魔化して、切れたケーキにフォークを刺した。






「あんたも、」



「え?」





不意の彼の声に、ケーキを口に運ぼうとした手を止める。








「……あんたも、甘いもん、好きなんだな」






低くて、どことなく甘く響く、優しい声。



なぜかぎゅっと胸が締め付けられて、思わず顔を上げた。




優しい色を含んだ瞳と目が合って、胸の奥が鳴る。




慌てて視線を逸らして、フォークに刺さったケーキを見つめた。



「は、い……」



ぎこちなく答えて、ケーキを口に含む。



甘酸っぱい匂いが口に広がる。


甘さを残して溶けていく。




美味しい。




心臓の奥がフッと緩んで、また、一口ケーキを口に入れた。