店員さんがいなくなって、また、二人の空間に緊張が走る。
──“俺は、”
店員さんのおかげで壊れた空気が、再び積み上がっていってるような気がして、膝の上で緩んでいた拳を握りしめた。
さっきの言葉の続きを、彼が話し始めてしまう。
彼の表情が視界に映らないように、必死にケーキだけを見つめる。
真実を知りたかったはずなのに、聞くのが怖い。
脈が徐々に主張を増す。
研ぎ澄まされた聴覚に、はぁ、と短い吐息が聞こえた。
ドクリ、と押し寄せた脈に胸を打たれて、反動で顔を上げる。
目に映った彼は、目の前のケーキに視線を落としていて、そっとフォークに手を添えた。
「ケーキ、食べるか……」
形の良い口からポツリと言葉を落として、スッと視線を向けられる。
思わず鼓動が跳ねて、視線をケーキに移した。
「あ、これ、美味しそう、です、ね」
何かを紛らわせるように無理やり口から言葉を吐く。
「ああ」
低く短く響いた彼の声が、なんだか優しく感じて、一瞬にして空気が和らいだ。
食べろ、ってことでいいんだよね?
話の続きは流れたってことだよね?
ゆっくりとフォークに手をつけて持ち上げる。
ケーキにそっと当てると、フワリと沈んで切れた。
それを刃先に刺して、口の中に入れた瞬間に、ジュワッと溶けて甘酸っぱい味が口の中いっぱいに広がる。
「美味しい……!」
思わず呟くと、「よかった」と低い声が返ってきた。
「このチーズケーキとショートケーキが、この店で一番美味いから」
そう言った彼に目をやると、彼はいつもの無表情のまま、フォークですくったケーキを口に入れた。
ぴったりと閉じた薄い唇の奥で、含んだケーキの味をゆっくり味わっているのがわかる。
このケーキが本当に好きなんだろうな。
こんなに美味しいケーキは、私も初めて食べた。
彼は甘いものが好きなのかな。
こんなにケーキの美味しいお店を見つけるぐらい、ケーキが好きなのかな。
すごく意外。
そんなことを思って、思わずフッと笑みが漏れた。
──“俺は、”
店員さんのおかげで壊れた空気が、再び積み上がっていってるような気がして、膝の上で緩んでいた拳を握りしめた。
さっきの言葉の続きを、彼が話し始めてしまう。
彼の表情が視界に映らないように、必死にケーキだけを見つめる。
真実を知りたかったはずなのに、聞くのが怖い。
脈が徐々に主張を増す。
研ぎ澄まされた聴覚に、はぁ、と短い吐息が聞こえた。
ドクリ、と押し寄せた脈に胸を打たれて、反動で顔を上げる。
目に映った彼は、目の前のケーキに視線を落としていて、そっとフォークに手を添えた。
「ケーキ、食べるか……」
形の良い口からポツリと言葉を落として、スッと視線を向けられる。
思わず鼓動が跳ねて、視線をケーキに移した。
「あ、これ、美味しそう、です、ね」
何かを紛らわせるように無理やり口から言葉を吐く。
「ああ」
低く短く響いた彼の声が、なんだか優しく感じて、一瞬にして空気が和らいだ。
食べろ、ってことでいいんだよね?
話の続きは流れたってことだよね?
ゆっくりとフォークに手をつけて持ち上げる。
ケーキにそっと当てると、フワリと沈んで切れた。
それを刃先に刺して、口の中に入れた瞬間に、ジュワッと溶けて甘酸っぱい味が口の中いっぱいに広がる。
「美味しい……!」
思わず呟くと、「よかった」と低い声が返ってきた。
「このチーズケーキとショートケーキが、この店で一番美味いから」
そう言った彼に目をやると、彼はいつもの無表情のまま、フォークですくったケーキを口に入れた。
ぴったりと閉じた薄い唇の奥で、含んだケーキの味をゆっくり味わっているのがわかる。
このケーキが本当に好きなんだろうな。
こんなに美味しいケーキは、私も初めて食べた。
彼は甘いものが好きなのかな。
こんなにケーキの美味しいお店を見つけるぐらい、ケーキが好きなのかな。
すごく意外。
そんなことを思って、思わずフッと笑みが漏れた。