「何してる」



真後ろから聞こえた低い声に、ドクン、と心臓が跳んだ。



は、と音のない息を吐いて、左足を地につける。



視線の先にある、本屋から出てきた人影は、背中に大きなリュックを背負い、本屋の小袋を開けながら、嬉しそうに奥へと歩いていった。



人違いだ。


エスカレーターに乗っていた彼はリュックなんて背負っていなかった。





背筋にピンと硬い棒が入ったように、全身が固まる。



耳の奥で、鼓動だけが音を響かせている。



力強く掴まれた二の腕が、ジンジンと脈を刻む。



「何してるって訊いてる」



さっきより僅かに強い口調の低い声が、耳元で鼓膜を震わせた。



錆び付いたように固まった首筋を、ぎこちなく動かして振り返る。



目に映った黒いシャツ。



硬い首をゆっくり傾けて、視線を上へ辿る。



わかっているのに、鼓動が緊迫した音を鳴らして、緊張感を煽る。


いや、わかっているからそうなのか。



首から顎、口、鼻、と視線を辿って。


予想通り。


私を見下ろす綺麗な切れ長の瞳と視線が繋がった。