背が高くて、シンプルなチノパンに黒いシャツの腕まくりが映える、スタイルのいい人影。



無造作に動きのある髪からのぞく、隠れかかった切れ長の瞳を。間違えるわけがない。



ドクドクと血液を押し出す鼓動に肺が押されて、息がこぼれた。



「見つ、けた……」



“彼”だ。



ざわざわと胸の奥が騒ぎ出す。



一歩、二歩、と誘われるように、彼の乗るエスカレーターに足が向かう。



「……雪瀬?」



エスカレーターで下っていく彼が、だんだんと床に隠れて見えなくなっていく。



待って。

行かないで。



内臓からこみ上がってきた言い知れない衝動に押されて、苦しい息を吐き出した。



「えっ、おい雪瀬!?」



気付いたら私は走り出していて。


綾月の声に振り返らないまま、「先に帰ってて」とだけ叫んで走った。