「眠れた?」

昨日と同じカップを差し出して聞いてくれた。


「うん、ぐっすり」


喉に張りつく声は不快だ。コーヒーを流し込めば、乾いたからだを潤すように染みわたるのを感じる。


「なら良かった」

「ごめんね、ベッド取っちゃって」

「別に。なぁ、なんだかこの感じって同棲してるみたいだな」

「えっ?」

「わりぃ、冗談」


弘くんは頭をかいた。


「ねぇ、弘くんて同棲したことあるの?」

「...学生時代にな」

「そっか」


でもそのひととは別れちゃったんだね。

ねぇ、どうして人って出会いだけじゃダメなのかな。

どうして別れがあるのかな。そんなものない方がいいのにね。


カップの中で揺れる黒い液体を私は見つめた。