──それは夜明けの少し前だった。


光のない薄暗い街の中を独りで歩く。街灯さえも雨に曇ってよく見えない。


漆黒の空を見上げれば、黒い点が無数に私に降り注ぐ。



シャッターが降りたひと気のない地下鉄の入り口。
始発にはまだ時間がある。



きっと『そんな大袈裟なことじゃない、ただ間違えただけだ』そう言って私を笑うだろうな。

だけど、私にとっては大袈裟なこと。

想いが大きければ大きいほど、衝撃も大きい。


許せばいいじゃない。聞かなかったふりをすればいいじゃない。

頭では分かっている。

自分を納得させようとするけれど、悲しみの感情が次から次へと溢れてきてそれを凌駕してしまう。

...酷い。


私の心の中で、完成したパズルのピースがパラパラと一枚一枚落ちていく...。


私と結婚するって言ってくれた。だけど、本当にそれでいいの?

もし、彼の中に私以上の女性がいたとしたら、私はそれで幸せになれるの?

酷いです徹さん。まさかよりにもよってあんな時に名前を間違えるなんて。


あなたの中にいる”カナ”って誰ですか?