『ねぇねぇ、森野さん墨田区から引っ越して来たの?』 
 『前の学校に好きな子いた?』
 『そらちゃんて呼んでもいい?』 

 目をキラキラさせた同級生たちが私の周りを囲む。
返事をしようにも言葉が口から出る前に次の質問が投げかけられるから声にならずに消えていく。

 『ちょっと~。森野さん困ってるよ。みんな、猿みたいよ~。』

 私の前の席から声だけの助け船。
周りにいた子達が一斉にそちらに振り替える。

 『いいじゃん、さゆちゃんも気になるでしょ~。』

 "さゆちゃん"と呼ばれた子が後ろを向きながら笑いかける。 

 『そりゃあ、気になるよー。でもさ、森野さん明らかに引いてるし。端から見たら本当にみんな、猿だから止めたほうがいいよ。』

 さゆちゃんの言葉にみんな『もう、やだぁ。さゆちゃん。猿なんて言わないで~』と笑いながら
『じゃあ、またお昼にでもいっぱいお話しようね』と私の周りから引いていく。
一気に居なくなった私の周り。
ほっとしていると前から『よろしくね。』と小さな手が伸びてきた。

 その手の主は、"さゆちゃん"。

 『よろしくね。私、さゆりって言うの。呼び捨てでもいいし、ちゃん付けでもいいよ。好きに呼んで。』

 おずおずと自分の手を出して"さゆちゃん"の手を握る。

 『森野(もりの)そらです。よろしく。・・・さゆちゃん。』

 ぎゅっと握った手が温かくて
ニッコリ受け入れてくれた笑顔が眩しくて
私もつられて笑顔になった。