今日はバレンタインデーで、神谷はチョコレートケーキを持っていた。
それも、確実に手作りのケーキを…

悪いけど、会議の話なんか全く頭に入ってこない。
神谷が中学の頃と何も変わらなければ、今でも、きっと大人しい女の子のはずだ。
きっと、恋人に対しても一途で、優しくて、そして可愛くて…
そんな神谷の大切なバレンタインのケーキを俺は台無しにしてしまった。


俺は神谷と同じ中学で、一年と三年の時に同じクラスだった。
神谷は美術部で、とにかく絵が上手かったのを覚えてる。
俺は野球部で、その頃の俺達の中学の野球部は全国的にも強くて有名だった。
だから、校区外の人間も越境制度を使って野球のためにこの中学に入学するほどだった。

俺はその中でもエースのピッチャーで、とにかく野球ばっかりの日々だった。

神谷は俺の初恋の相手だ。
神谷の物静かで控えめなところが大好きだった。
色白でぽちゃぽちゃっとしてて、笑うとマシュマロみたいな柔らかい笑顔が大好きだった。

俺とはまるで真逆の存在で、もちろん好きだなんて一度も言った事はない。