「か、神谷…?」
俺は震える声でそう呼んでみた。
本物の神谷だって確認したわけじゃない、でも、きっと間違いないけど、ここで振り向いてくれたら俺の大好きだった神谷だということだ。
神谷は振り返った。
キョトンとした顔で周りを見回している。
そして、やっと俺に気付いた。
でも、神谷の瞳は、今朝ぶつかったあの人?という認識しかない。
「あの、今朝の事を謝ろうと思って…」
俺は神谷に気付いてほしかった。
「あ、名刺とか見てないよね…?」
天然気質の神谷の事だ。
俺の名刺の事なんかきっと忘れている。
案の定、神谷はハッとした顔をしてバッグの中をあさり始めた。
「ケーキ、ごめん…
誰かにあげるつもりだったんだろ…?」
神谷は友達みたいに話してくる俺を戸惑った様子で見ながら、まだバッグをあさっていた。
「あの、これ…
手作りのケーキには全然敵わないと思うけど、なんか美味しいみたいだから。
本当にごめん、許して…」