「高校生大変だもんね…頑張って!」
「結衣さんも!」
バイバイと手を振って食堂へと入る悠くん。
あぁ、なんか元気でた。
悠くんの癒しの姿にモチベーションも上がり、握るホウキに力を込める。
郁人さんの部屋から先に掃除しようと、しばらく歩いて開けた扉。
一目で分かる、ここの部屋に掃除は必要ない。
窓も床も本棚も、全て汚れはなく綺麗で、整理整頓もされている。
一応ホウキだけでも…と掃いたはいいが、ホコリもほぼない。
郁人さんの性格上、掃除は自分で日課的にやるタイプだろう。
掃除する意味もないほどのホコリを取り、隣の幹也さんの部屋へ。
「げぇえ…」
案の定の部屋。
脱ぎ散らかした服、読みかけの本、広がった新聞、開いたエロ本。
幹也さんらしすぎて引く。
とりあえず本は本棚、服は畳んで机の上に、エロ本は…まあベットの下にでも隠しておくか。
そうして掃くと、出てくる出てくるホコリたち。
「ぶぇっごほっ」
どうしたらここまでホコリが溜まるの!?ってレベルで出てくる。
口を覆いながらせっせと掃いて、郁人さんの部屋の倍の時間をかけてなんとか掃除を続ける。
何かに使ったティッシュが転がってたり
食べたお菓子の袋だったり
ありえないほどのゴミの量に、一体いつまでここの部屋は放置されていたのかと不安になった。
幹也さんここで寝てるんだよね…?
疑問に感じながら掃除、掃除、掃除。
やっと終わったときには、見違えるほど綺麗になって。
これが部屋ってものだよ幹也さん…
私は達成感に満ち溢れた気分で、次の部屋へと移動を始めた。
蒼さんの部屋へ入ると、もうそこは世界が違った。
ベッドメイキングしに来た昨日はこんなことになってなかった。
とても個人の部屋とは思えない。
仕事類だろう資料が机の上に何個も山積みになって、
床には企画の案だろうか、大きな模造紙のような物が何枚も広がっていた。
昨日、私が去ったあと仕事をしていたんだろう。
じゃあ一体何時に寝て何時に起きたっていうの…?
汚いなんて言えない。
掃除もどうしたらいいのか分からない。
佐伯財閥と呼ばれる佐伯家の父親は、大手IC企業を世界に有するトップの経営者。
そんな息子である佐伯家の4人は将来が約束され、お金に困ることもなく楽に暮らしていける。
そう思ってた。
もしかしたら違うのかもしれない。
何も分からないけど、こんな量の資料見てたらそう思わずにはいられなかった。
楽に暮らしていける人が夜中まで仕事なんてするの?
仕事しなくてもお金が入るんじゃないの?
今まで羨ましかった佐伯家の生活。
世間が知らない何かがある気がした。
__ガチャ
と、悶々と考える私の背後で扉の開く音。
ハッと振り向くと、案の定蒼さんが姿を現し、私を見て少し眉を寄せた。
「あぁ掃除?」
「あ、えと、はい…。…ごめんなさいなんか、こんなに、あの…」
蒼さんは私の目の前を通り過ぎると、忘れ物をしたのか山積みになった資料を漁る。
その顔つきはどこか冷たくて…
「あ、あの…そ、掃除、あとでしますね」
「よろしく」
私の目を見ずに去っていく。
あぁ違う。
あれは私が知ってる佐伯蒼だ。
テレビで見ていたクールな佐伯蒼。
口数が少なくてミステリアスで、何を考えてるのか想像もできない。
私がかっこいいと思っていた佐伯蒼だ。
私がかっこいいと思っていた…
「蒼さん…」
あれは本当にかっこいい姿だったのか、
あの目は、あの表情は、本当に無口でクールなんてキャラを作るものなのだろうか。
考えると頭が痛くなって、私は蒼さんの部屋を手つけることなく出た。
悠くんの部屋に着くと、その高校生らしい部屋に安心。
漫画やゲーム、音楽CDが棚に置いてあって男子高校生って感じ。
スッキリ収納された部屋、物はいっぱいあっても綺麗に見えた。
これこれ、これが1番掃除したくなる部屋だよ
私は物をどかしながら、せっせと床を掃いた。
「ん?」
と、ベッドの下を掃こうとホウキを伸ばしたときだった。
何か硬いものにホウキがあたり突っ掛かる。
なんだろう、と下を覗くと
「…え」
薄暗いベッドの下。
絡み合う男女が写る本。
「ンンン…?」
見間違い
そうだ見間違いだ
悠くんに限って絶対そんなことは…
「…」
ホウキで取り出し言葉を失った。
目の前に出てきたソレは完全なるアレ。