悲鳴に臆さず、2人は駆け出す。

内心の焦りを表情には出さずに、わたくしは優雅に椅子に腰掛ける。


そうして、表情ひとつ変えず、身動きすらしていないように見える彼を見やる。





「ラギア」

「なに」

「何故“今”報告しましたの」


美しい赤と紫の瞳は、凪いだままにわたくしを見る。




「何故だと思う?」



問いに問いで返されたわたくしは、口端を釣り上げた。





「神の思し召し、でしょうか?」



彼は、静かに目を伏せた。




「さあ」


肯定でも否定でもないその返答は、彼の口ぐせのようなもの。

決して揺らがず、本心を見せない“神の愛し子”。



「いいですわ。起こってしまったことをあれこれ言っている暇があったら現状をなんとかしますわよ」

「うん」

「ですからラギア、わたくしを守りなさいな」

「うん」


淡々とした了承に、フンと胸をそらした。




「絶対に守りきらなくては許さなくてよ?
わたくし、死ぬわけにはいかないのですもの」



傲然と笑んだとき、天井からわたくしの傍に小柄な少女が着地した。

音は、しなかった。



「どちらも擦り傷1つ付けさせませんので、ご安心を」


栗色の髪に紫紺の瞳。

記憶に埋没しそうな、凡庸な顔立ちの少女。


紺色のお仕着せを着て、両手には短剣を持って穏やかに笑ったその少女の名は、ムム。



わたくし子飼いの暗殺者。