「それを、信じろと?」

「俺は信じる」

「・・・・・・わかりました」


ふう、と美女は息を吐いた。

そして、完璧な笑顔を見せた。

完璧な作り笑いとわかる笑顔だった。



「そういうことにしておきましょう。
しかし」


にこやかに穏やかにそこまで言って、彼女は言葉を切った。

表面的な笑みがさっと消える。

澄んだ薄い緑色の瞳に冷たい光が宿った。


「私個人としましては到底信じられることではございませんので、警戒はさせていただきます」



言葉はわからなくても、彼女が私を信じていないのはわかった。

でもそれはきっと、至極当然のことだ。


今さっき初めて会った、昨日ここに来たらしい身元不明の娘。

念和で思考が読めるわけでもないのに、信じられるなんてありえない。




ムッシェさんとか、アイナとか、ムムとか、マーニャとか。

昨日会ったみんなの方が稀有なんだ。



理解はできる。

だから私は、へにゃっと笑って頷いた。




あなたは、きっと正しい。






今思うと、なんで昨日会った人たち皆があんなにも優しかったのか不思議だ。

すごく・・・その優しさに救われたから、本当にありがたかった。


昨日の優しさがあるから、今笑って頷けるんだ。






「わかた。
わたし、アサヒ。あなたは?」


だから、あなたの名前を教えてくれませんか?




美女は、目を微かに細めて答えてくれた。


「エリィとお呼びください」

「えるいーとおりょびゅくずだい」

「エリィ」

「えるいー?」

「リ」

「るい・・・るぃ、みゅーん・・・り?」

「エリィ」

「えりぃ!」



美女は少し口元を緩めて頷いた。