-Ryudai-


「で?なんで俺に突然着いてきたの?」


人見知りで、最初は扱いに困ると聞かされていた上、


あんなに俺の事を嫌がってたのに突然ノリ気になって来たから正直驚きふためいているのはこの俺。


「千谷先輩、なんかしつこそうだったんで」


「紫織ちゃんって口悪いよね」


「千谷先輩くらいですよ。こんな事言うの」


「ありがとう」


俺が紫織ちゃんを連れてくるのに選んだのは、俺の行きつけの洋食屋。


店の前に連れてきた時も『ファミレスに連れてこられるかと思ってました』と中々厳しいことを言われた。


「紫織ちゃんハンバーグ好きなの?」

彼女が注文したのはこのお店の一番人気でおすすめのオムライス。

ではなく二番人気のハンバーグだった。


「はい」


「俺も好き
でも、ここのオムライスめっちゃ美味しいから。俺のちょっと分けてあげるな?」


「大丈夫です。千谷先輩が食べるのが少なくなっちゃうじゃないですか。」


ちょっと紫織ちゃんの素が見れたかな。


生人と陸空が二人揃って言った-優しくて気遣いができる。-という部分。


「いいよ。俺がその分の紫織ちゃんのハンバーグ貰うから」


「なるほど。」



「あのさ、またしつこいって言われるかもだけど、ほんとに俺がしつこいからって着いてきたの?ほかの理由は?」


「元カレと同じ香水だったし、後ろから抱きついてきた時の感じとか、喉仏の鳴る感じが似てたんで。
とでも言っときます。」



やっぱり。



突然態度が変わったから何かあると思った。



俺がこの子をアイツに重ねてるのと同じように、この子も俺を過去の人物に重ねている。



知らない傷を舐め合っている。


俺がこの子に告白して、この子と付き合えたとしても俺らは、


ただ傷を舐め合うだけの関係にしかならないとここで確信する。



だけどそこで、今まで傷を舐めさせたいと思う人すらいなかったことを思い出す。



「そうなんだ。
実を言うとさ、俺もそうだよ。」


「俺の元カノに似てんの。
紫織ちゃんの身長も顔も、声も。
元々陸空達から話聞いてたからって言うのもあるけど声を掛けたのはこれが理由。
抱き心地まで似てたのはびっくりしたけど。」




思い出すように自嘲する。



「これ。お互い何の得にもならないですよね。」



同じような思想をしてるのか


思ってることは同じ。


「あるよ。一人で飯食うより二人の方が美味いから。」



「それはそうかもしれないですね。」



そこでタイミングよく店のおっちゃんが熱々のハンバーグとオムライスを運んでくる。



「ありがとうおっちゃん」


「ゆっくりしてな。」


おっちゃんが優しく紫織ちゃんに微笑みかける。


紫織ちゃんが同じように微笑み、会釈し、すぐに目の前のハンバーグに目を向ける。




その目があまりにキラキラしてて、思わず頬が緩む。


あんなに口が悪くても、食べ物を前に目を輝かせる姿を見て可愛くないと思える訳がない。


「そんなに美味しい?」


「...悔しいけど、美味しいです。」


「なんで悔しいの。
そんなに俺のこと嫌い?」


笑って聞く。



「嫌いです。
でも、ここに連れてきてくれた先輩は好きです。」



「可愛いこと言うのな。
ほら、オムライス。」



「...え、めっちゃ美味しい。」



「だから言ったじゃん。」



「先輩のいうことなんか信用出来ないから」



「うるせぇよ」


「ふふ」


俺の前で初めて笑った彼女。


「笑ってる方がいいじゃん。
クールにしてると男寄ってこないぞー」


「別にいいですよ。
ここのオムライスを彼氏にしますから。」


「いや、ここ俺が連れてきたんだし」



「知らないです」




そんな風に目を細めて笑う姿は、どことなくアイツと似ていて、でもアイツとは何かが決定的に違った。


やっと心を開いてくれた彼女を前にいつまでも過去を重ねる俺は相当最低なんだろう。