「遂に明日だね」

元々、先輩にミュージカルに誘われたのは文化祭の5日前だったため、先輩達と知り合ってから文化祭までの日にちは一瞬だった。


「早いですね」


「千谷に会えるね」


「全然楽しみじゃないです。」


「でも私が紫織ちゃんに紹介しようと思って一番に思い出したの千谷だよ」


「そうだったんですか?」


「うん。
麗ちゃんが言ってた涼くんとの過去の事とか考えた時にぴったりだと思ってねー
千谷も過去がある分いいかなって思って」


「私そんなに涼さんの事に執着してないですからね?」


「そうなの?」


「はい。振ったのもこっちですし」


「そうなんだ」


確かに振ったのはこっちだし、執着してるかと言われればもうそんなでもない。



でもきっと、なにかの間違いがあって、あの人と私がまた会うことがあれば、間違いなく私は彼に着いていってしまうだろう。



それくらい、年上のあの人のことが好きだった。



「莉嘉ちゃーん!ちょっといいー?」



「ちょっと待って!!


でも。
涼くんの話してるときの紫織ちゃんの顔!
すっごく悲しそうだよ。」


先輩の友人らしき人に呼ばれて、

莉嘉先輩はそう言って去っていった。



自分でもわかってる。


あの人の話をする時、


知らないうちに眉を顰めてしまうこと。


笑おうとしてもうまく笑えないことも。


胸の奥がズキズキと痛むこと。


思い出が脳裏をかすめ、脳みそが酔ったようにフラつくこと。





だけどそれは、あの人のせいじゃない。


そういつも言い聞かせている。

今日もそうだ。





そんなことを、廊下の片隅で1人考えていると、



フワッと匂い覚えのある匂いが鼻を掠め、肩に重みを感じるのがわかる。



「えっちょっと」


「シーッ。糸井紫織ちゃん。
今から俺とデートしない?」