-You-
「ねぇねぇねぇ!
糸井紫織ちゃん、だよね?!」
入学して10ヶ月。
教室で文化祭準備をしている最中に突然そう声をかけられる。
「私、3-Aの山本莉嘉!
実はさ、私らがするミュージカル?の役をしてくれる子探してるんだけど!」
「はぁ。」
元気すぎる莉嘉先輩に圧倒されながら返事をする。
「そのミュージカルで一番に悪役に殺されて、一番に助けられる役の子なんだけど!その役だけしてくれる子が見つかんなくてさー
そこで!3年まで可愛いって噂が広まってる紫織ちゃんにお願いしたくて!
どう?やらない?」
「私、演技とか出来ないですし...」
「いいの!倒れて起き上がるだけだから!
お願い!私の親友が困ってて。
ね?いいでしょ?」
人見知りで恥ずかしがりな私。
同級生の子からのお願いだったらすぐ断ってたんだろうけど、
わざわざ離れた3年生の教室から足を運んでまで私にお願いしに来てくれた先輩に申し訳が立たなくて困り果てる。
そこに、
「いいじゃん!
人見知り克服のチャンスだよ!
莉嘉先輩。この子やります!」
「え、ちょっと」
同じクラスの友達、塩見麗が割り込んできてそう告げる。
「本当にいいの?!」
食い気味に確認してくる莉嘉先輩に戸惑う。
「え、麗。私、」
「頑張ってみなって!
もしかしたら涼くんより素敵な先輩と出会えるかもだよ〜」
「ちょっと麗!」
「へぇ〜紫織ちゃん年上好きなの?
自慢じゃないけど私らの学年イケメンばっかりだよ〜」
麗の言葉を誤解すること無く解釈し、私をからかう莉嘉先輩。
「いや、そういう訳じゃ」
「もう分かってるって〜!
倒れて起き上がってくれたら、いい奴紹介してあげるから」
「いえ、だから、その」
「もう紫織!覚悟決めよ!
するの?しないの?」
「...莉嘉先輩のお友達さんも困ってるんですよね...」
「めっちゃ困ってる!」
「他の子とか...?」
「いない!」
「...分かりました」
「本当に?!やったー!
ありがとう!紫織ちゃん!あと麗ちゃんも!
約束通り良い奴紹介しに来てあげるから!
また来るね!じゃ!」
渋々承諾した瞬間、台風のようにあっという間に去ってしまった先輩。
「紫織!よくやった!」
「もう麗が余計なこというから!」
「元々断れないなーって雰囲気は感じてたんでしょ?」
「ん、、まぁ。」
「じゃあいいじゃん!
いい先輩紹介してくれるっていうし、涼くんのこと忘れるためのいい機会になったんじゃない?」
「だから、その人の話しないで。」
藍川涼。
私の思い出の中で一番最低で、大嫌いな人。
そして、
一番恋焦がれていた人。