「なぁ。あいつなんであんなカリカリしてんの?」


杏色の夕日に照らされていつもより明るい茶色に見せる髪を風に靡かせて上城生人が呟く。



「なんか最初に殺される女の子が決まらないらしい」



そんな辛辣な言葉をツラツラと言ってのける黒髪は同じクラスの篠宮陸空。




誰も文化祭で殺される役はしたくないだろ。



なんて喉元まで上がって来た言葉を心に押し込む。



文化祭でするミュージカルの役員をしてるのは、ただでさえ男勝りで怒りっぽい、幼馴染の斉川恋だ。


そんなこと言えばブチ切れられるのは目に見えてる。



「れーん!!!
いい子見つけた!1年B組の糸井紫織ちゃん!!めっちゃ可愛いんだよ!!!」


廊下から興奮気味の声が聞こえてくる。



「その子やる気あんのー!?」



「あるー!私がゴリ押ししたらやってくれるって!」



ノールックで叫ばれた言葉に、廊下の女子は答える。




「相変わらずうるせぇな」


「生人自慢の莉嘉ちゃんだろ」


「どこが自慢だよ」


そうやって俺の言葉を死なせた割に生人の目は元カノである山本莉嘉に釘付けだ。


生人のiPhoneのホーム画面がまだ二人のツーショットだということは俺も陸空も知っている。



「ヨリ戻せよ」


「んでだよ」


「まだホーム画はツーショの癖に〜」


「は!なんで陸空知ってんの?!」



「ちなみに俺も知ってる。」



「え!は?!なんで?!」



そんな風にゴチャゴチャ言ってる生人と陸空を背に俺は教室を退室する。



窓枠にもたれ掛かって恋と話す山本が目に入る。


廊下の壁兼柱にもたれ掛かり、教室の死角から彼女に声を掛ける。




「生人、まだ山本のこと好きだよ。」


「え?何突然。」


「糸井紫織ちゃんって、どんな子?可愛い?」


「いや、だから」



「案内してよ。紫織ちゃんの所。」