「久しぶり!3人とも元気そうだね」


「まぁ」

苦笑いをしながら生人先輩が答える。


この人が咲妃さん。


とても美人で、体も華奢な人だ。


龍が愛した人。


そう思うと一気にやるせなさが襲ってくる。



「龍橙くん。髪の毛染めたんだね。
似合ってる」

「ありがとう」


龍橙くん。


名前を呼ばれ肩を揺らす龍。


似合ってると言われ、耳に赤みを帯びさせる龍。


咲妃さんが現れてから見せた龍の表情は、昨日と今日を通して一度も見せたことのない子供のような純粋なものだった。



本能が私に告げる。

-ここに居てはいけない-



龍は昨日私に好きだと言ってくれた。
だから自信を持っていいんだ。


と最初こそ言い聞かせられていた。

でもその空気感や色素の薄い咲妃さんの瞳が龍の瞳を捉えるのを目の当たりにする度、心に稲妻が走るような痛みを感じる。



「...お腹痛いからお手洗い行ってきます。」


「大丈夫?」

「気にしないでください。」

「うん。
行ってらっしゃい。」




分かってくれるかと思った。


お腹が痛いなんて嘘だろ?って聞いて欲しかった。


出会ってから24時間もたってないのにそんなことを千谷先輩に期待する私はなんて自己中なんだろう。



結局。

期待したもの負け。

惚れたもの負け。


そんなこと、分かってたはずだった。

容易に人を信じるんじゃなかった。


時間が私の意志を崩してしまった。



色んなものが馬鹿馬鹿しく見え、涙さえも流れなかった。



自分でも驚くほど落ち着いた気持ちで学校の門をくぐる。