-Ryudai-


教室に紫織ちゃんを連れていけばクラスの色んなところから冷やかしの声が飛んでくる。


生人と陸空も近寄ってきてめちゃくちゃ驚いた顔。


しかも二人揃って

こいつに何されたんだ!

って一番に俺を疑う質問を彼女に。


「何もしてねぇよ!
俺を何者だと思ってんだよ。」

「変態クソジジイ」

「おし。陸空お前今日パシリな?」

「え、やだわ」

「じゃあここでお前の性癖ぶちかますぞ」

「おい。」

「じゃあ今日俺らの昼飯買ってこいよ。」

「ったく。分かったよ。」


そんなやり取りをしてる一瞬の間に生人はと言うと紫織ちゃんに質問攻め。


その様子を眺めていると浮かぶ疑問。


「生人先輩。そんなに心配してくださらなくて大丈夫ですから。」



「いや、だってこいつの彼女でしょ?
いくら俺でも心配はする。」


「生人先輩は莉嘉先輩のことだけ心配しててください。」




「なぁ。紫織ちゃん。」


「はい。」


「生人の事なんて呼んでる?」


「生人先輩。」


「陸空は?」


「陸空先輩。」


「俺は?」


「千谷先輩。」


「うーっわ!お前彼女に苗字で先輩呼びされてんの?!」


「うるせぇ!
え、なんで?」


「え、何となくです。意味は特に。」


「なんか悔しいわ。」


まぁそりゃ俺よりこいつらの方が紫織ちゃんと出会うのは早かったかもしれないけど、俺の方が関係的には深い訳だし、めちゃくちゃ悔しい。そして悲しい。


「じゃあなんて呼んで欲しいんですか?」


この子は分かっててこんなことを聞くのか。

『そりゃ下の名前呼び捨てがいいに決まってんだろ』

って言うこと。

言わせたいのか?

俺と並ぶほどSなのか?

キャラでもない考えが頭を駆け巡る。


「そこは龍橙だろ。って言いたいけど、それじゃ特別感ないしな。」


なんか負けたくなくてそんな訳の分からないことを言ってみるけど、


「じゃあ龍くん」


こっちの方がやっぱり一枚上手かもしれない。


「龍くんだって!可愛すぎるかよ」


「良かったな龍橙くんじゃなくて!」


こいつはなんでさっきから地雷を踏むんだろうか。

「ちょっ!お前それ禁句だぞ」

「うわやべぇ」

「いいよ別に。それくらいじゃ怒んないから。」



-龍橙くん!-


いつまでもこびりついて離れないその声がその名前を呼ぶ。


陸空の言う通り、紫織ちゃんの声でその名前を呼ばれたら俺は自分自身をどうにもできなくなってしまうだろう。


「紫織ちゃんは分かんなくていいよ。」


何の事かわからないとでもいうような顔で三人の会話を見上げながら聴いてる紫織ちゃんにそう告げる。


「...うん」


ちょっと寂しそうに納得する姿に心が痛む。

ごめんな。この話をするのはもっと先だ。

そう言葉にならない謝罪をする。