「ご馳走様でした。
また連れてきてください。」


「自分で来いよ」


「ケチですね」


二人とおっちゃんだけの店内で落ち着いて色んな話をしたからか、さっきより毒舌のキレがいい。



「口悪い」


「こんなに早く心開いたの初めてです。」


「それは嬉しい。
あんなに俺のこと嫌がってたのにな。」


「食べ物には弱いんです。」


俺からかなり下の目線から見上げてそんなことを言うのが可愛すぎて思わず目を逸らしてしまう。


「...帰ります。
ありがとうございました。」


「おい。送ってくから。」


「いいですよ。」


「アホか。一応紫織ちゃん女の子だから。
しかも俺と遊んでて帰りに犯されたとか文句言われても困るし」


「一応とか、責任逃れとかなら大丈夫です。」


「嘘だよ。普通に心配だわ。」


「心配してくれるんですか?」


「しない訳ないだろ」


「さっき目逸らしたからちょっと嫌われたかと思いました。」



この子こんなにあざとい子なの?


俺のツボどんどんついてくる。


嫌味なく自然とこんなこと言えるのすごいし、


これに勘違いする男は五万と居るだろうな。


「そんなこと言ってたら変な男に好かれるぞ。」


「どういうことですか?」


「紫織ちゃんが可愛すぎるってこと。
早く帰るぞ。」


「先輩って意外と色んなこと口に出しますよね。照れないんですか?」


俺の後をチョコチョコ付いてきながらそんなことを聞く。


「口に出さないと女の子が可哀想だから。」


「そんな事してると色んな人が勘違いしちゃいますよ。」


「いいんだよ。させとけば。」


「そっちの方が可哀想。」


「お前だけだから大丈夫。」


「私勘違いしないです。
何回もそれで騙されてきたんで」


何されたの?

そう聞こうと思い、後ろをちらっと振り向けば彼女の瞳はさっきの明るい色とは違う薄く澱んだ色をしていた。


「俺は大丈夫だよ。そんな事しないから。」


そう言って彼女の手をとる。


「先輩。
好きになっちゃいけないって思ったらヒトはもう恋しちゃってるらしいです。」


「うん。それで?」


「今私、先輩のこと好きになっちゃいけないって言い聞かせてました。」


「うん。ダメ。」


「勘違いさせてるじゃないですか。」


「嘘だよ。俺も好きだから。」


「その予定無くバックハグしてきてたなら本当に最低ですよね。」


「付き合ってから好きになろうって思ってた。でも結局付き合う前から好きになってるよね。」


「私、付き合うの怖いんで嫌です。
好きになるのも怖いですもん。」


「いいよ。俺のこと怖くなくなってからで。
俺しつこいから毎日聞いてあげる。まだ?って」


「それはしつこい」


俺には想像つかないほどの傷を彼女は負ってる。


そんな傷、俺みたいな奴が癒せるとは思ってない。


そんな彼女は


俺の事を好きでいてくれる間は、側にいて欲しいと思ってくれてる間は、その傷に何かカバーでもしてあげられるようになろう。


出逢って間もないのにそんなことを思わせた。


「で、家どこなの?」


「生人先輩の家から200m位駅に近いところです。」


「なんで生人の家知ってんの?」


「昨日帰りの電車で会って、一緒に帰った時に、ここから200m位行った所が家だって私の家の前で言われたんで。」


「ふーん」


「妬きました?」


「妬かねぇよ。」


「かっこいいですね。」


「意味わかんない。」


「ていうか私と付き合う気だったんですか?」


「時間差すごいね。
まぁ顔好みだから」

「やっぱり最低」

「ヤリたかっただけとかよりいいでしょ」

「同罪です。」

「怒んな。」

「怒ってない。」

「可愛いな」

「それ言っとけばいいと思ってますよね。」

「え、違うの?」

「違わない」


顔も可愛ければ、中身もこんなに素直で可愛いとは想像してなかった。


きっかけは何であれ、いつしか彼女しか目に入らなければ、それでいいとこの時はそう思っていた。