「じゃあ、何かあったら電話して」
 香織と僕は家を出る時間が違う。僕の方が少し早い出なため、彼女は僕を見送ってくれる。
「うん、じゃあ気をつけて行ってらっしゃい」
「行ってきます」
 僕は片手にゴミ袋を持って会社への通り道にあるゴミステーションにゴミを投げていく。

 10月。もうそろそろ雪が降りそうだなぁと見上げれば、雪虫がちらついている。
 高校生の時、自転車を爆走していたら口の中にたくさん入ってきたこいつが、今じゃゆっくりと観察する時間がある。
 ふっと捕まえてみれば、手の中で羽を広げてみたり、閉じてみたり。ふわふわとした白い体がぷりぷりと動きながら手の中をこちょばしてくる。なんとなく、少しだけくすぐったい。

 ほら、飛んでけ。と人差し指から飛ばそうとしてもなかなか飛んでいかない。雪虫は熱に弱いという。僕の体温で雪虫の一生がここで終わろうとしている。
 まだやりたいことが沢山あったかもしれない。
 ふっと息をかければ一瞬で見失ってしまった。それでも生きていけないのだろう。寿命はもう目の前の雪虫は、何をするのだろう。

 そう考えながら、僕は会社に入った。