私は課長に促されるまましぶしぶ廊下に出

る。経理課の前で倉持くんが立っていた。

私に気づいていないらしく遠くを見てい

る。

「あっ、あの・・・倉持、くん」

私は思い切って声を掛けた。すぐに彼が私

に気づいて笑顔になる。日頃の疲れが全て

吹っ飛んでいきそうな優しい笑顔に心が弾

んだ。

「葵さん。良かった、話があったんです」

「話?仕事の事かな」

私がそう訊くと彼は「いやいや」と首を横

に振る。不思議に思って彼を見ると不意に

唇が耳元に触れた。

「今日、時間ありますか?」

「えっ?あ・・・うん」

「そっか・・・なら、一緒にお食事でもし

ませんか?」

彼の甘い声が鼓膜を震わせる。まさか仕事

中に誘ってくるとは思わず動揺してフラフラ

した。

「おっと。葵さん、大丈夫ですか?」

彼はそっと腰に腕を回して私の体を支え

る。密着している事に耐えられずすぐに離

れた。