「じゃ、葵さん。また」

「うっ・・・うん、また」

彼は優しい笑顔で大きな手を振ってくれ

た。ドキドキしながら振り返すとそのまま

総務課へと消えていく。私は経理課だから彼

とは別。お隣同士なんだけど仕事中に総務

課へ行く用事もあまりないから退屈だ。


「はぁ・・・」


デスクに着くとイスにダラッと腰掛けた。

溜めていた吐息が一気に漏れ出す。彼の事を

思い出して顔が熱くなった。

「あーおーい。なーに赤くなってんの」

「あっ、美香」

隣に座っていた同僚の小関美香(こぜきみ

か)がイスに座ったまま肩を組んでくる。こ

の子は美人だけどいつもこういうダルいノ

リだからいつしか慣れてしまった。

「まーた彼とイチャイチャしてたでしょ」

「へっ!?」

美香の言う「彼」とはおそらく倉持くんの

事だろう。

「彼って?誰の事よ」

「決まってんでしょ。倉持くん。いーっつも

イチャイチャしてんだから、妬いちゃう

わ」