「果菜、一つ言っておかないといけないことがある」

「はい」進藤さんの胸に顔をうずめたまま返事をする。

「俺たちのことが週刊誌に乗るらしい」

進藤さんのキスに溶けそうになったぼやっとする頭に稲妻のような衝撃が走る。

まさか。
さっきから感じていた何かはこれだったのか。
進藤さんの胸から顔を上げて呆然と彼を見た。

「載るのは3流ゴシップ誌と言われている雑誌だ。『LARGOのギタリストのタカトのデート現場を激写』ってことらしい。
その記事に載る果菜の情報は『女優M似の都内在住一般女性』としか書いてないし、写真も目元を隠したようなものじゃなくて果菜の後ろ姿だけだ」

おろおろとし始めた私の手を進藤さんがぎゅっと握り占めてきた。

「果菜、落ち着け。大丈夫だから」

「でも、大騒ぎになったら、進藤さんにも進藤さんのファンにも迷惑がかかっちゃう」

頭の中はどうしよう、どうしようって言葉がグルグルと回る。

「普通そこで心配するのは自分が追いかけられるとか嫌がらせされる心配って方じゃないのか?」

「何言ってるんですか。
私は自分の責任で進藤さんと一緒にいるんだからそこは仕方ないと思ってます。でも、やっぱり軽率だったのかも」

手先が冷たくなり震えてくるのがわかる。
「進藤さん、進藤さんはこれのせいでLARGOの裏方に回るなんて言わないですよね?」

「いいから、果菜、ちょっと落ち着けって」
私はまたも進藤さんに引き寄せられて大きな胸に抱かれ、子どもをあやすように背中をポンポンと大きな手が落ちてくる。

その優しい仕草に鼻の奥がじわっと熱くなり、涙がこみ上げてくる。