「あれから、長いよ」

私は、舜の前で止まった。

「舜くん、明るくなってく。私、舜くん見てるけど、強いよ、舜くん。」

舜くんは、にこにこ聞いてくれていた。

「負けないで、舜くん。大切。大切だよ、いまの瞬間。」
「うん。田辺くんに負けない。」 

…ありがとう、田辺くんに、負けないから…。

「ちがうよ?舜くん、みんなに、だよ!」

つい、保健室前で大声を張り上げてしまった。けど、ついに言ってしまった。

「舜くんは、変わったよ?強くなった!私が憧れるくらい。あんなに…頑張ってたもん。舜くん、凄いよ。」

舜は、本当に別人みたいで、私から遠く感じる。でも、勇気をくれたし、私にも、なにか出来るようなパワーを教えてくれた。舜は、魔法使いだね、強い魔法使いだね。
男子って、こんな強いんだね

舜は、笑っていた顔を、軽く叩いて、私にこう返した。

「俺さ、大切って言葉、大好き」

うん。

「俺さ、約束も、大好き。」

うん。

「松山さんとの、大切な約束ね。俺、もっと負けないよ。でね、松山さん、俺、話がある。」

舜は、手を出した。

「松山さんが、俺に変わった、って言ってくれたから、次は、松山さんの番だよ?」
「舜くん?なんで?わたし?…急に?なんで?」

「俺が、松山さんのこと、側で見守ってあげる。…だから、松山さん、もっと、皆の輪に入ろうよ?」

「いいよ!みんな、友達だもん!」
「じゃあ、さ、松山さんのこと、俺が幸せにしてあげる!」
「え?舜くん?」

「俺が、松山さんが俺より幸せになるように、可愛くしてあげる!」

私は、びっくりして笑いだしてしまった。
「いいよ、なんで急に?」

すると舜は、はにかんで、こういった。

「いずれ分かるけど、俺、松山さん嫌いじゃないよ?」

…舜は、保健室で、ひとり仮眠をとってくることになった。
強い舜の強がりな台詞の、嫌いじゃない、の節が、私には、どうやら誤魔化されなかった。

涙が少しずつ、溢れて、幸せになってゆく。

けど、舜は、言った。

「俺よりも幸せになるように…」

舜は、はにかんで、上手く話せないまま、話してくれた。

私は、すこし、ちくりと痛みを知った。