歌を歌えばこだまして帰ってくる。
眠れば、さざ波の音が包んでくれる。

そこは、私のパラダイスで、誰も立ち入ることのできない場所。

私だけの秘密だった。

ある日、春の日。
私は、この場所にブランケットを持ってお昼寝をしに来た。夏まで、まだまだ日は長く、潮風はまだ冷えている。
パーカーを丸め、枕にして、ブランケットにくるまって、いつものように横になった。

しん…とした、午後。
もう皆帰ってしまった時間帯。
バタバタと、足音が響いてきた。男子の声と、女子の声。なかに、声変わりが終えてない、舜の声がした。
舜だ、と、わかった自分が、少し不思議だった。

「いいじゃん!減るもんじゃないし!」
女子が、叫んでいた。
「待てよ、青山!青山?」
「私、皆と中学ちがうんだもん、このくらいいいじゃん!」
舜が、大声を上げて、青山さんを、止めていた。
何事か、私はブランケットから起きて出て階段下を覗いた。

「ほら!」

青山さんは舜に、手を伸ばしていた。抱きしめてほしいのか、舜に近寄っていった。
その直後、舜は、青山さんを抱きしめ、青山さんは、泣いていた。

ちくり、と、痛くなってきた、胸が、熱くなった。


なんでか、見たくなった。
どきどきしているのと、なんで私じゃないのか辛かった。
それもそうだけど、舜は、青山さんと仲が良かったことすら知らない。
舜は、女子と平気で話せるようになっていた。そうだった、舜はこの頃なんだか明るくて、私の友達グループにも話題はのぼっている。

舜は、大人になっている。
舜は、次の瞬間、青山さんの頬を撫でて唇に触れた。そして、青山さんと、口づけをした。

「舜?」
私は、口を大きく開け、舜の名前を呟いた。
「あれ?あ、キャンディ…」

キャンディが、階段の踊り場から舜たちの近くへ転がってゆくのが見えたようで、私は慌てて舜たちを見やった。
舜は、微動だにしなかった。

…私は涙が零れていることに気がついて、必死でブランケットで拭うと、パーカーとブランケットを握りしめて階段を走り、ふたりの横を横切って帰った。

舜が、あのとき、「あ、だれ」と呟いた唇は、私の大嫌いな口元になった。

あの唇が、大嫌い。

舜は、青山さんは、綺麗なカップルで、青山さんは、どことなく雑誌のモデルに似て大人っぽかったし、舜は、舜で格好よくなっている。

忘れさられてるような、私が嫌だ。
舜が、嫌いになった。
逆に、舜と青山さんが嫌いになった。

努力しないで、二人を嫌いになった私は、路地裏で踏切の音を聞きながらいちごミルクキャンディを、ばらっとばらまいて帰ってきた。

そのくらい、気づかなかったけど、パーカーから、キャンディが流れでていた。