津田君は授業中決まってあることをする。
ここ数週間の観察の結果だ。
月曜日と木曜日にある地理の授業。
決まって彼は後ろを向く。
因みに津田君の後ろにはあたししかいない。
故にあたしを見ることになる。
彼はあたしのノートを覗き込む。
そして、
「ちょっと貸して、」
そうキレイな声で言う。
断る理由なんてないから快くノートを貸す。
貸したノートはその日の帰りのショートホームルームで返ってくる。
「…富田さん、」
「はいっ!」
「…ノート、」
差し出されたノートを受け取ると彼はあたしに背を向ける。
一度机に直す。
掃除も終わって教室から人がいなくなったころあたしはノートを開く。
小さな紙に、小さくてだけどキレイな字で書かれた[いつもありがとう。]それを見る度嬉しくなる。
彼はどうやら地図を書くのが苦手らしい。
津田君からの小さなありがとうを大切に残しておこう。