「あっ、じゃあ私はこれで……」と、空気を呼んで立ち去ろうとした時。



「詩、遅いじゃん。いつまで待たせる気だよ~」


待ちくたびれたと言わんばかりのタカシが、わざわざ私を迎えにきてくれた。


頼んでもいないのに。


今この状況でタカシが出てきたら、色々と面倒なのに。


タカシは本当に、空気を読まない男だよ。



「たっ、タカシ君。今戻ろうとしたところだよ」


「またまた~、照れちゃってさ、詩ってば」


「へっ?」


タカシは持っていた鞄を私に差し出した。


それは私の手に馴染んでいる私の鞄。


……なんでタカシが私の鞄を?


「詩さ、トイレ行くなんて嘘つかないで最初っから言えばよかったのに」


「……えっ?」


「部屋の外で待ってたんだろ?俺が出てくるの。
 そんで2人で抜け出そうと思ってたんだろ~。
 なんだよー、最初っからそう言えよ。時間無駄にしちゃったじゃんか」