「……」


急に無言になった。


いや無言にしたのは、きっと私。


先輩の目が見れなくて、太ももの上で緊張を隠そうと拳を握ると。


さっきから響いていた階段を上る足音が、ピタリと止まる。


「あっ」と、1組のカップルらしき男女が、私達を見て驚く。


ラブラブを見せつけるカップルは、ハートを撒き散らしながら互いの肩を抱き寄せていた。



「なんだ先約いんじゃん。
 ここならあんまり人来ないから、二人っきりになれると思ったのにね、ハニー」


彼氏の方はそう言って、彼女のおでこをつつき、二人仲良く上ってきたばかりの階段を下りていく。



「見た、あの二人」


強烈(きょうれつ)な印象を残していったカップルに、さすがのミア先輩でも驚いたみたい。


見たことがない目の見開方をしている。




「見ました。あんなドラマに出てくる様なラブラブなカップル。現実にもいるんですね」


「違うそっちじゃない。
 あの二人、互いのネクタイ交換してたよね」


「えっ、そっち!?」


「はあ?そっちしか気になるとこなかったじゃん。
 どこ見てんだよ天沢ちゃん」


「……」