渋谷真斗を奪っちゃう!

「オレが…、お前に嫌われる理由が分からないんだけど? お前を怒らせるような事をしたかな?」

「…」

 今度は如月さんは返答しない。

「オレには何もやましい事はしてないつもりだけどなー。一生懸命、好きになってあげているのに」

 ここで如月さんは表情を固くした。

「はぁ? アンタ、なーに正義ぶってんの?」

「え?」

「アンタは、自分のバカづらを鏡で見た事があるの?」

「なーんだよそれ?」

 ワケの分からない岡村くんを見て如月さんは呆れ顔でため息した。




「アンタって他の女のコたちからは誰も相手にされていないんでしょう? モテないし見向きもされない。めちゃモテの渋谷とは大違い」

「何が言いたい?」

「アンタのようなクソ男子を、私がお情けで彼女になってあげてんだよ!」

 如月さんは岡村くんから初めて声をかけられた頃、他の女のコから色々と教えてもらっていた。

 頑固者で性格悪い男子って言うイメージから女子からの嫌われ者だって事をね。

 それで最初は交際を断ろうと思っていたみたいだけど、熱心に声をかけて来るから仕方なくOKした。
周りのコからも交際してあげてって促して来たから情けで彼女になってあげたって事を決めたのだった。

「義理彼女って事か?」

「そうだよ!」

「何て事だよ! オレはお前の彼女じゃなかったのか!」

「私の本当の気持ちを知ったなら、アンタはどうするの?」

 今後の事は岡村くんに決めてもらおうって事なのだ。

 ちょっと間を置いて岡村くんは言う。

「オレはもう知らん。勝手にしろ」

「別れるって事」

「…」

 何も返事しない岡村くん。
 ここで2人の交際にピリオドが打たれたって事かな?



パチパチ!

 いきなりマキちゃんが拍手した。

「フフ! ステキな事だよ岡村く〜ん」とマキちゃんは満面の笑み。

 コレには如月さんがカチンと来たみたいでマキちゃんに詰め寄った。

「ふざけているの⁉︎ なーにがステキな事よ!?」

「ステキな事でしょう? 義理で交際していると分かれば離れたくなるよね〜」

「アンタねー!」

 キレた如月さんはマキちゃんに手を上げた。
 マキちゃんは咄嗟に、その手をガシッとつかむ。
「自分がした事なのにぃ〜、なーんでキレちゃうのかな〜?」

「アンタ!」

 マキちゃんの方が一枚、上手かなー?
 このコって結構、ケンカが強いからねー。
 
「これで私が次の交際相手の座に着けるなー」とマキちゃん。

 次の交際相手の座?

「マキちゃん、誰の?」

 私の質問だ。

「決まってるでしょう? 岡村くんのだよ」
「はぁ? なーにそれ? なーんでアンタが?」

 如月さんには理解出来ない事だ。

「亜留が言うクソ男子を、私がいただくって事だよぉ〜」

 すかさず私は話しかける。

「マキちゃんがもらうって事?」

「っそ。私は前々から、岡村くんの事が好きだったしグッドチャンスだな〜」

「女のコから誰も相手にされない…」

 如月さんが言い終わる前にマキちゃんが言う。

「モテなくても1人の女のコを大事にする岡村くんはステキだよぉ〜? 亜留ったら渋谷くんはモテないって勝手に決め付けてるけどぉ〜、思いを寄せているコも少なくないんだから〜」
「アンタったらマジで、そんな事を言ってるの?」

 マキちゃんに対して軽蔑な眼差しの如月さん。

「マジだよぉ〜」と言ってマキちゃんは岡村くんの腕に手を触れた。

「え?」

 ベタッと身を寄せてきたから岡村くんはビックリ!
 マキちゃんは更に言う。

「亜留ったら〜、人の事は言えないんじゃないのぉ〜?」

「私が?」

「うん」

「なんの事?」

「岡村くんと沙耶はここで待っててね〜」
マキちゃんはそう言うと、いきなり如月さんを引っ張ってこの場を離れた。

 少し離れた所で何か言葉をかけ始める。

 如月さんは顔を真っ赤にして言葉を返し始める。

「アイツらいったい、何を言い合いし始めたんだ?」

 岡村くんは気になって2人の所へ行こうとしたけれど私はサッと腕を掴んで止める。

「言ったでしょう? ここで待っててって」

「それはそうだけど」

「女のコ同士の秘密の会話だから、盗み聞きはダメだよ」

 マキちゃんはスマホを取り出し如月さんに中身を見せた。
 しばし画面を見つめた如月さんは目を見開き、茫然とした表情を見せた。
(まさかマキちゃん…、アレを)

 マキちゃんが何を見せたのか私には勘で分かる。

 固い表情のままの如月さん。
 私や岡村くんの所へは戻って来ず1人、トボトボと立ち去って行った。
 マキちゃんの方は満足した表情で戻って来る。

「アイツと何かやり取りをしたのか?」

 岡村くんの質問にマキちゃんは笑顔で答えた。

「まぁ、色々とね〜」

「どんな…事を?」

 すかさず私は注意する。

「言ったでしょう? 女同士の秘密の会話だって」

「それはそうだけど」

 岡村くんの手を取ったマキちゃん。

「岡村く〜ん、私と付き合ってね〜」

「ええっと…、君と…」