渋谷真斗を奪っちゃう!

「でもアイツにも良いところはあるぜ」

「どんなところ?」

「嘘は絶対に付かないし人を裏切らない。根はすごく真面目なんだ」

「そうなんだ?」

「物事の良し悪しに関しても、キッチリとしているからね。まぁ、人として当然の事だけど」

「悪いヤツじゃないんだね?」

「そうだな」

 松元はしっかりと岡村の事を見ていた。

「なのにオレを悪く思ってやがる」

「渋谷を悪く思っているって事は逆に、自分の彼女に信頼しているからだろう?」

「…」
「アイツは女性を大事にするって話しだからよ。如月亜留を悪く思いたくないかもね。それに第一、ベタ惚れだし」

「らしいな」
 
 話しは岡村から如月さんになった。
 松元が思わず情報を話してくれた。

「岡村は良いヤツだけど反対に如月亜留は悪い女だって事を渋谷くんに教えておく」

「腹黒いとか?」

「まぁ、そんな感じかな? 見た目は超カワイイけど中身は逆だって事」

「逆?」

「自己チューでワガママ。恋愛に関しては浮気っぽいってクラスの女子が噂しているしね」
「如月さん、他に誰かと交際しているとか」

「どうだろう?」

 さすがに松元は詳しい事は知らないようだ。
 更に驚くべき情報が松元の口から出て来た。

「岡村に密かに思いを抱いているコがいて、狙っているって言う話しをクラスのコが教えてくれたけどね」

「誰なの? その狙っているコって?」

「名前は知らないけど、渋谷くんのクラスのコらしいぜ」

「オレのクラスの?」

「っそう」

「誰だろう?」
「なるほど、大変な状況になっているんだー!」

 今の状況を知ってすみれちゃんは驚きを隠せない。

「そうだねー」

「沙耶も苦労するねー」と私に同情してくれるすみれちゃん。

「如月亜留って、どんなコなの?」

「欲張り屋かな? 欲しいと思ったら何でも絶対に手に入れないと気が済まない性格って感じだねー。自分さえ良ければ他人の事はどーでも良いって考えで行動しているし」

 すみれちゃんが如月さんと出会ったのは小学校入学の時。

 お母さん同士がふとした事がキッカケで会話するようになり、それで意気投合したのが始まりだったみたいね。
それにつられて、すみれちゃんも如月さんもすぐに親しくなったとか。

 すみれちゃんは家が金持ちで頭の良い如月さんが全てにステキに思っていたらしいけど、小学校の高学年に進級するようになってから段々と悪い面が見えて来るようになった。

 初めの頃は注意はしたみたいだけど、如月さん自身が悪い面を直す気持ちがなかったから何も言わなくなった。

 言いすぎて友だち関係を壊したくなかったのね。

「そんな身勝手なコに私も渋谷も振り回されているんだなー」

 ちょっと私、イラッと来た。
「っで? 沙耶はこれからどうするの?」

「どうするかって…」

「渋谷くんをあるっち(すみれちゃんは如月亜留をこう呼んでいる)に取られた状態になっているんだよねー? 何とか取り返すとか言う行動を取らないと、ずっとあるっちの思いのままだよ」

「ええっと! まだーそこまで考えていないなー」

「考えていないんだー? 沙耶なら、すぐに行動に移すと思ったのにー」

「うーん、さすがに今回だけはねー」

 渋谷を完全に如月さんに取られてしまった格好だし、ハッキリ言って私の負け。

 下手に実力で奪ってしまえば向こうは何をしでかすか分からないから今は静の状態で様子を見守るしかない。
「渋谷くんの事、沙耶はどう思っているの?」

「ちょっと怒ってるけどねー」

 違うコからキスされてしまって呆然となっていた渋谷だったからね。

「渋谷、何をやっているのよ⁉︎ しっかりしなよ!」と私は今でも文句言いたくなる気持ちなのだ。

 すみれちゃんが言う。

「あるっちから強引にキスされるなんて、さすがの渋谷くんも想定していなかったんじゃないかなー? だから責めるワケにはゆかないと思う」

「私もそんな気持ち」

 渋谷のせいじゃないって私もすみれちゃんも同じ意見で一致した。
なのに渋谷は私に対して罪悪感を抱いているようだ。

 学校で私と目が合った時の行動を見ればハッキリと見て取れる。
 私に嫌われていると思っているのね。
 教室内では目を合わせようとしないし。

 私が何気なく近づこうとすると避けてしまうし。

 なーんだか、寂しい気分だよねー。

 渋谷も辛いように、私だって辛いんだから。

 とりあえずは今は、岡村くんに接する事を私は決めた。
 渋谷をゲットした如月さんから彼をもらったんだから。

 岡村大吾って言う男はどんな人間なのか知るにはちょうど良い機会かな?
夜…

 オレに珍しく佐野綾香さんから電話があった。

「佐野さーん、久しぶりだよねー」

 中学時代に戻った気分で佐野さんとの楽しいお話しタイムだと思った時だ。

「久しぶりじゃないよ渋谷くん!」

「え?」

 何だか怒っているような口調だけど。

「すみれちゃんから話しを聞いたよ! 沙耶を泣かせたってー⁉︎」

「えー? 別にオレ、イジメも何もしていないけど?」

「他の女のコと浮気したんでしょう⁉︎ しかも堂々とキスしたって言うじゃない!」

「それは…」

「フラれたって沙耶! すっごくショック受けてる!」