「僕は今までずっと、誰かに話したいと思っていたんだ。」



先輩は窓の外を見て言った。



「でも今は君と論じてみたいと思っている。わかる?」



私はゆっくりと首を振る。



「そうかい、でもいつかきっと分かるよ。」




先輩はこちらを見てニコリと笑った。






「ここに1匹の猫がいると仮定しよう」


先輩が花壇に腰掛けてこちらを向く。


「その猫はここにいる、つまり、ここに存在しているね?」


「存在していることを証明するのではないんですか?」


私の言葉に先輩はにやりと笑った。







「そうだね、では猫がここにいると証明するためにはどうしたらいいかな?」



「触れるかどうか?」



「では、ここにいる猫は『触れない』から存在していないのかな?君のご両親は今触る事ができないが、確実に存在していないのしているだろう」



「…聞いただけです」





「では、聞き方を変えよう。ここに猫がいることは果たして事実だろうか?」


私はしばし考える。







「現実的に考えるのであれば、事実ではありません。」



先輩はにこにこしながら私の言葉が続くのを待っている。




「私の目に猫は映らないし、鳴き声も、息をする音もしません。触ることもできない。存在の定義には値しないと思います。」



先輩はにこにこしたまま。






「僕はね、自分がここにいることが事実かどうか、常に考えているんだよ。自分は息をしているし、心臓も動いている。だがしかし、それは本当に存在しているというのだろうか?」






「…では、先輩は何を存在すると定義するのですか?」