「はじめまして」

 普段穏やかな母に叩き起こされ、何事かと思いながらリビングに行くと知らない人がいた。

「……お母さん、この人は?」
「真代(ましろ)君よ。……えっと」

 何故かオロオロとしだす母。
 状況が飲み込めない私はどう反応すればいいのか。
 母娘ともに困惑する中、ソファに座っている彼、真代君が口を開いた。

「俺の名前は嶋月(しまづき)真代。ひよりさん、貴女の婚約者(フィアンセ)です」
「………」

 どういう事なんでしょうか。
 彼が、私のフィアンセ?
 ここは何処かのお伽の国ですか!?
 
「あのね、最初はひよりちゃんのお友だちだと思ったのだけれどそうじゃないみたいで、話を聞いたらいきなり婚約者って言われたのよ」

 母には心当たりが無いようで、母が分からないことは私にもわからない。
 でも、もしかしたら何処かで会っているかも……。
 チラリと横目で彼を見てみる。

「何でしょうか?」

 白い肌に薄い唇、漆で塗られた糸の様な黒髪。
 儚げな印象を持つ瞳。
 やっぱり、私は彼と会ったことはない。
 見たことがあるのならこんな綺麗な人を忘れるわけがないし。

「あの、ましろ…くん」
「はい」

 純粋な瞳に見つめられ言葉に詰まる。
 でも確認しないと!

「私、真代君と初対面なんだけど…人違いしてませんか?」

 頑張って思い出そうとしても私はこんな綺麗な人と関わった記憶がない。

「……そう思われるのも無理はないでしょう。でも俺は貴女を忘れたことは一度もない」

 一度もないって、やっぱりどっかで会ってるのかな?

「そう、なんだ……。あ!そういや、真代君は何のご用でうちに?」

 結構大事なことを聞き忘れていたことに今更気付く。
 ただ単に自分が婚約者だとだけ言いに来た訳じゃ無いだろうし、しっかりと理由を聞かないと。

「はい。実は父からひよりさんを連れてくるようにと言われて、一緒に来てもらえないか伺いに来たんです」

 知らない人から今度はお呼ばれ?!
 もう何が何だか分からなくなってきた。
 私の隣でお母さんも更に困惑している。

「ひよりさんにはこれから俺の家で生活してしてもらうことになります」

 本当にどういう事?
 もう訳がわからない。

「ひよりさんのお父様から了承はいただいているのでご心配なく。」

 お父さんなんで許しちゃったの!

「え、じゃあ私これから真代君のお家で暮らすの?」
「そうですね。ですから学校も俺の家から通うことになります」







───数日後。


「おはようございます、ひよりさん」
「お…おはよう、ございます………」