通行人のジロジロとした視線に、誠一はようやく私を解放した。

「ごめん、そろそろ行こうか。日が暮れちゃうな」

「うん……」

 離れていく温もりが寂しい。ゆっくりと歩き出した私たちの間で揺れる指先が、一瞬微かに触れて離れて、それからどちらからとも無く絡め合った。
 毎晩のやりとりの中、二人で書き込んだ地図を見つつ、遊園地を目指す。坂を下って暫く行けば、懐かしいはずの町並みは随分と様子を変えていて、私たちは目印となるものを探してウロウロとさ迷った。

「見て誠一、こんなところにスーパーなんてなかったよね? 前は何があったんだっけ」

「さあ……もう忘れちゃったな」

 歩けば歩くほど知らない町だ。心細さに、私はしがみつくような思いで繋いだ手に力を込める。あの頃の思い出を探しに来たはずなのに、私たちの拠り所に帰ってきたはずなのに、まるでがらんどうに二人きり、放り出されてしまったようだ。

「たしかこの先のバス停から乗り込んで五つか六つ行ったところだったと思うんだけど……参ったな、どこ行きに乗ればいいんだか」

「大学病院……」

 呟くのは、私が死んだ場所。

「あの日バスに乗りながら、ああ、次にこれに乗るのは入院する時なんだなあって思ったの、よく覚えてる」

 やがてやって来たバスに乗り込んで、一番後ろの席に並んで座る。手を繋いだまま、私たちは黙って窓の外を見つめていた。
 二人の目の前は行き止まり。けれどそこにはもう一つ別れ道がある。今の理沙と智樹を捨てて、永遠にこのままでいること。ノートを介して愛を語り合い、人生が終わるその時まで二人きり、過去だけをなぞっていくこと。
 まるで心中のようだ。

「ねえ誠一、遊園地についたらいっぱい乗り物乗ろうね。観覧車にも乗ろうね」

「ああ」

 生きていながら、共に死ぬこと。
 それはなんと甘美な夢なのだろう。これから乗る観覧車のように、閉じられた世界に二人きり、宵の中にキラキラと光って……

 私はそっと目を閉じる。あの日のきらめきが瞼の裏に広がって、いつまでも輝き続けていた。