数日後
「空の国第1王子レオン・スカトゥールでございます」
レオンは花の国の王、スカルス・エトワールに最高礼をする
最高礼とは王族にする礼であった
「立派な王子になりましたね、レオン王子。最後に会ったのはいつかしら」
王の隣に座っていた王妃、エリザベータはにこやかに笑う
「10年くらい前の舞踏会じゃないか?」
「もうそんなにたつのですね」
ルーナの両親は微笑み合う
「そしてこちらが…」
「ツボミ・アオイです」
とお辞儀をするツボミ
しかしそのお辞儀は初対面にする、ましてや王族にするお辞儀ではなかった
「ツボミ様!」
ルーナは静かにしていようと思っていたがこれは失礼であると思いつい口出しをしてしまった
「え?」
よくわかっていない様子のツボミ
「あなた様のお辞儀は貴族の方にするお辞儀ですわ!今目の前にいらっしゃるのは花の国の国王ですわ。無礼にもほどがありますわ」
ルーナは焦った
もしこれで父や母の機嫌を損ねれば空の国との婚約もなくなり戦争になる可能性だってある
ツボミは空の国の客のためその振る舞い1つ1つが空の国の印象になるのだった
「最高礼をご存知ありませんの?」
「す、すみません!!まだ、慣れていなくて…」
「ツボミ殿はどこの国の方なんだい?ルーナ」
「陛下…え、と」
ルーナは言葉につまる
もしここで素性がわからない娘となれば
花の国から即刻追放だろう
花の国は人に敏感である
国中にさまざまな花は年中咲き誇る
しかし、その花達は国外の者の空気にとても敏感であった
さらに、花の国に住む花の精霊はよそ者を極端に嫌う
素性が知れないと分かれば花にも影響を及ぼしかねない
「ルーナ?」
「彼女は…」
「彼女は今は我が国の来賓ですが、彼女の国は遠い東の国だと聞いております」
ルーナの言葉に被せてきたのはレオンだった
「東の国!聞いたことありませんわ」
「地図には載っていない小さな国だと聞いています」
ルーナはレオンの助けによりホッとする
「彼女の国と我らの国とは作法が違うようです。お許しいただけませんでしょうか、陛下」
「それなら致し方ない。ツボミ殿、少しの期間だが、この国を楽しんでくれ」
「は、はい」
ツボミとレオンはその後部屋へと案内してもらうため、退室した
ほっと一息をつくルーナ
「陛下、わたくしもこれから用事がございますので失礼いたしますわ」
ルーナは王と王妃に礼をし、退室した
「(さて、行きますか)」
ルーナは周りを気にしながら城の裏にある小さな森に向かって足をはやめた
ルーナはとても花が好きだった
花好きの愛に応えた花の国の精霊王がルーナをとても気に入っているということがわかった
ルーナが城にいた頃はよく、ルーナと精霊王とでお茶会などをしていた
「(精霊王に気に入られてるらしいのよねぇ)」
ルーナとなった今でもそれは有効なのか
少し心配になりながらも幼い頃通った森の道に入る
進むにつれ森は静けさを増していく
「あ!ルーナ姫だ!」
「おかえりおかえり〜!」
どんどん奥に進むと花の精がお出迎えをしてくれる
「ただいま!精霊王はいらっしゃるの?」
「いるよいるよ〜」
精霊の言葉に嬉しい表情をするルーナ
それもそのはず
ゲームの中では王子たち以外にも精霊王との交流シーンがあった
その中でも好きだったのが花の国の精霊王だった
ヒロインなだけあってチート設定のため、人嫌いな精霊王でさえヒロインに力添えをする場面もあった
ルーナはその時、花の精霊王がとても美しい、と思ったのだ
「あ!フラング!」
名前を呼ぶとくるりと長い緑の髪を揺らしルーナを見る男性
彼が花の精霊王、フラングだった
ルーナは勢いよくフラングに飛びつく
姫としてははしたない行動だが、ルーナはフラングの前だけは普通の少女だった
「ルーナかい?あぁ美人になって」
「ふふ!美人なフラングに言われてもあまり嬉しくないかもしれないわ」
「おやおや、僕が美しいのは知ってるけど、ルーナも劣らない美しい女性になったよ」
フラングはルーナの頭を優しくなでる
「そういえば空の国の坊やがきたみたいだね」
「えぇそうよ!レオン様よ」
「へぇ…ルーナをお嫁さんにでもするのかい?」
「あたりですわ!」
「ルーナ、困ったことがあったら僕に願うといいよ」
「?」
あまり理解していないルーナの頭をポンポンとするとルーナから離れるフラング
「今日はあまりゆっくりできないんだ。ごめんね」
「そうですのね」
「入り口まで送って行ってあげるよ」
「またきますわね」
ルーナはずっと離れていたフラングとあまり交流ができず悲しそうだった
それはフラングも同じだった
「さぁ、行こうか」
フラングがルーナの手を取るとルーナとフラングの周りに木の枝や葉っぱが生い茂り
2人を包み込む
そして2人はその場から姿を消した