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私の名前は、ハース・ルイス。代々、騎士としてこの国を守る家系に生まれた。かく言う私の父は、この国の現騎士団長。私は、その一人息子として、生を受けたのであった。
母と同じかがやく黄金色の髪に、父と同じ澄み渡る空色の瞳。周囲は、それを褒め称えた。
それに加え、私は、剣術はもちろん魔法も、勉学も、音楽まで、ありとあらゆることが、少し教えを請うだけで望まずともできた。出来てしまう。それを周りは、賞賛し、「英明」と言われるようになり、父の後を引き継ぎ、次期騎士団長として注目されるまでになった。
恵まれた容姿、恵まれた才能。その点は、偉大なる父と優しい母に感謝している。周囲の大人達は、私を大げさに褒め称え、周囲の令嬢達は、私に囁きかける。「ハース様、どうか私と婚約を」と。なぜかと問えば、私の容姿、私の立場、すべて私の外見ばかりを判断して、言い寄ってくる。立場上、無下に断るわけにもいかず、上っ面の笑顔を貼り付け、私は彼女たちの相手をする日々。
私のことを何一つ知らないくせに、「ハース様は、本当にお優しいですわ」「ハース様は、なんでも出来て素敵ですわ」。皆、口をそろえてそういうのである。対する私は、そんな彼女たちを見て、どんどん冷めていった。
私が、優しいものか。父の立場があるから、そのように振る舞っているだけだ。
私が、何でも出来て素敵? 素敵なものか。与えられたものを淡々とこなしているだけだ。
けれども、だからこそ、周囲からの大人の評判は、それはいい。しかし、一方で、裏を返せば、それ以外の人には、妬まれているのである。周囲の同世代の良家のご子息には、かなりだ。
ある時、現騎士団とその騎士の子息を集めての武術披露があった。その際に、私よりも歳上の騎士の子息が、皆の前で、自身の剣に水の魔法を付与する強化魔法を披露し、普通の剣では切れない人型の石像にヒビを入れ、みなを驚かせ、強化魔法の付与の仕方を発表したのだ。彼としては、珍しい強化魔法を皆に見せて、現騎士団と私たちに力を示したかったのだろう。そんな彼のあとに続いたのは、私だ。希有な強化魔法のあとに、普通の武術を披露したのでは、父もいる手前、興も冷める。彼が説明した強化魔法の原理は、わかった。右手に握った剣に、魔力を込めた左手をかざす。途端に、剣が淡く黄金色に光り出す。そのまま私は、彼がヒビを入れた石像に向けて、剣を構え、切りつけた。瞬間、ごとりと鈍い音がした。途端に、割れんばかりの拍手がわき起こる。強化魔法を披露した彼を見ると、私と私の傍らに転がった真っ二つにされた石像を見比べ、信じられないとばかりに顔を蒼白とさせていた。父はというと、満足そうに私を見ていた。
その後日、彼は血のにじむような努力をして、強化魔法を習得したと聞いた。対して、私は、たいした努力もせずに、それをなし得てしまった。
同時に彼は騎士になる道を辞めたと聞いた。私は、彼の騎士としての道を閉ざしてしまったのだ。
努力したところで、結局、無駄なのだ。できないものを一生懸命することに、何の意味がある?全くの無価値だ。どうせ、努力したところで、私に出会えば、挫折して、勝手に不幸になっていく。
だから、私は悪くない。悪くないんだ。私は、次第にそういうふうに思うようになっていた。
そんな風に思うようになってから、日常は変わっていった。
周りからの賞賛は、ただの言葉でしかなく、新たに追加されたスキルを習得することはノルマと課していた。
努力して何かをなし得ようとするのを見ると、冷めた目で見てしまっていた。出来ないものを努力することほど愚かしいことはないのだ。
そんな無機質な日々を過ごしていたある日、私は、“彼女”に出会った。