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「アリア様は、本当に勉強熱心になられましたね」
そう私を褒め称えるのは、私の教育係のオリバー・シュルッツである。11歳頃から、私に勉学を教授してくれている。この世界の御曹司、ご令嬢は、オリバーのような家庭教師を雇うのが常だ。この世界の子どもたちは、16歳になるとフィアーバ国立学校に入学するための試験があるのだ。そこに入学するためには、ただ単に魔法が使えればいいというわけではない。たとえば、魔力が高い、魔法についての知識力が高いなどなど。何かに秀でていないと入学は認められない。だからこそ、魔力がない私は、魔力ではなく、魔法に関する知識を磨く必要があるのである。そこで、3年の教育を修了すると、男子はエリート路線まっしぐらだし、女子は縁談が引く手あまただそうだ。縁談は、正直どうでもいいが、前世の大学を途中でフェードアウトせざるおえなかった私としては、是非とも今世では最後まで学び通したい。ともなれば、まずは試験に合格しなければならない。そのためにも、私は日々勉学に励んでいるのである。
「そうかしら?」
オリバーの整った顔を見ながら、私は答えた。はっきりいって、オリバーは美形だ。少し長めのシルバーアッシュの髪と瞳。年は、現在26歳。一言で言うと、彼は魔法にも詳しいイケメン家庭教師。
「はい、12歳の誕生日を迎えられる前までは、机に座るのさえ、厭われていましたから」
「…そんなこともあったわね」
そう、確かに私は、2年前の12歳の誕生日までは、わがままに育てられた傲慢知己なお嬢様だった。しかし、その12歳の誕生日を祝う誕生日会で、私の不注意で頭を強く打ち付けることがあり、その際に、私は、今のアリア・マーベルの生が、私の2度目の生だということを知った。そのため、以前の傲慢知己なわがままお嬢様でいることができなくなったのである。正直、前世の記憶を思い出す前の行いだから、触れないでほしい黒歴史だ。そんな私も、あれから2年。14歳だ。1度目の生も含めると35年生きたことになる。…うわぁ、おばさんじゃん。心の中で思わず突っ込む。
「はい、ですから、このオリバー、本当に嬉しく思います」
…ということは、目の前でにこりと微笑むオリバーよりも年上なのか…。それも、なんだか複雑すぎる…。と正直に話したところで、信じてはもらえないので思うだけにして、口には出さない。その代わりに、日頃からの感謝をオリバーに述べる。
「私の方こそ、オリバーに教えてもらう学問はとても楽しくてわかりやすいわ。本当にありがとう」
「嬉しいお言葉です」
にこりとほほえむオリバー。ここでの学問は、魔法学、魔法薬学、召喚魔法学、強化魔法学、魔法歴史学、ありとあらゆるものが魔法と関連し合っている。残念ながら、私には魔力がないけれども、それでも学ぶのは楽しい。前世でも、学ぶことは好きな方だった。それに、オリバーは、本当に教え方がうまい。実演してもらう魔法はいつも驚きと感動をくれる。
「…ということで、少し休憩がてらお話しない?」
そういって、オリバーの様子をうかがうように見れば、「そうですね。アリア様からお褒めの言葉もいただきましたし」といたずらっぽく笑う。
「今日は、どんな話をしてくれるの?」
オリバーに教えてもらう学問も好きだが、オリバーは興味深い話もしてくれる。今日は、どんな話をしてくれるのかとわくわくしていると
「アリア様は『英明のナイト』をご存じでしょうか」
微笑みながら私にいうオリバー。
「…『英明のナイト?』」
オリバーの言葉を思わずオウム返しに繰り返す。
…『英明のナイト』、どこかで聞いたワードだ。使用人が話していたのを小耳に挟んだのだろうか?ともあれ、どこで聞いたのか思い出せない。まぁ、とにもかくにも、英明と呼ばれるって言うことは、才能がある人のことか。そんな私の反応に、オリバーは丁寧に説明してくれる。
「何でもこなされる方だそうで、できないことはないそうですよ。特に、強化魔法が得意だそうです」
「強化魔法というと武器に自らの魔力を注ぎ込んで、武器を強化する魔法よね。でも、ただ自らが魔法を出すわけじゃなくて、他のものに魔法を付与するってことだから、できる人は稀っていっていたわよね」
「そうでございます。よく覚えてらっしゃいましたね。」
以前、オリバーに教わったことをいうと、オリバーは嬉しそうに笑う。オリバーはよく褒めてくれる。単純な私はそれだけで嬉しくなる。
「その方は、雷の魔法を刀に付与できるそうで、その刀で切れないものはないそうですよ」
「へー、すごい!」
どのように魔法を付与するのだろうか。興味がかき立てられる。
「ちなみに、今度、アリア様も行かれる社交界に来られるそうですよ」
「それは、是非ともお会いしたいわ!」
できるのなら、目の前でどのように付与するのか見せてもらいたい。欲を言えば、実際に切るところを見たい。実際に、会えるものなら、是が非でも見たい。そんな期待を抱いて
「名前は、何て言うのかしら?」
そう問えば、
「ハース・ルイス様でございます」
とオリバーはにこやかにいう。
「…ハース・ルイス…?」
そして、その名前に何故か、ひっかかった。どこかで聞いたことがあるような気がする。最近、使用人が話していたのを小耳に挟んだとか、そういうのではない。もっと昔の…えっと…、確か、前世で私が大学生やっていた頃の…。
「この国を守る騎士団のご子息だそうですよ」
「…そうなのね」
オリバーに相づちをうちながら、心の中で思案する。
「英明のナイト」…。なるほど、騎士団の一人息子だから、「ナイト」なのね。なるほど。
…そういえば、前世で大学生だった頃はまっていた乙女ゲームにも、いたな。騎士団の一人息子。確か、私が通り魔に刺される前に買った魔法の世界の学園を舞台とした乙女ゲームだ。そうだ。そうそう、そのゲームに出てきた金髪碧眼のキャラも、確か騎士の一人息子で、とにかく何でもできる「英明のナイト」として、学園のご令嬢を虜にしていた。しかし、その実、紳士的な見た目とは反して、かなりの腹黒だった。あの腹黒騎士の名前も確か、「ハース・ルイス」っていう名前だったような…。
なるほど、なるほど。「英明のナイト」と「ハース・ルイス」という言葉はここで聞いたのね。
はぁー、すっきり…!ずーっと引っかかっていたものがわかったときって、気持ちがいいものね…!
「じゃないわよ!!!!!!」
思わず、心の中での自分のつぶやきを突っ込んでしまい、目の前にいたオリバーは驚いたように瞬いていた。