「先輩はどうして、写真を撮るんですか?」
女の子のような、まだ声変わりしていない男の子のような声が頭上から聞こえてきた。高校二年生に進級し、先輩となった私は、入学したての一年生に絵の描き方を教えながらも自分の絵を描いていた。……ここは放課後の美術室。
「写真を撮っておかないと、その絵を描けないでしょ? この風景が綺麗だ、描きたい、って思うだけじゃいつかは忘れてしまうし、それに」
「それに?」
私は紺色に塗ったキャンバスから目を離さずに答える。
「風景ってどんどん変わっていくから」
自分でも、あ、いいこと言った! なんて思ったりしたけど、頭上から降ってきた声は、その考えをぶち壊した。
「へへっ、いいこと言ったとか思ってるでしょ、先輩。全然だよ。それはあたりまえだよ」
私はキャンバスから目を離して、後輩に向き合う。
「あのね、とあくん。まず敬語使おうよ。話しかけてきたとき敬語だったのになんで急にため口になるのかな」
はあ、とため息をつくと、美術部、新入部員の後輩、坂谷とあは私の手から筆を取って言った。