【七坂八幡宮 境内】

参道から 大鳥居をくぐり、二人は境内まで来た。
ここにも たくさんの屋台が出ていて 賑わっていた。
境内のほぼ真ん中には 緑の葉をびっしり付けた、見上げると首が痛くなりそうな大銀杏が宵闇せまる空に届きそうに見えた。
この祭りが終ると
大銀杏は ゆっくり色づき始め、ひんやりとし始めた空気の中、陽射しに照らされて黄金色の葉がキラキラして見えるようになる。
そして海を渡って、遠くの街から来た秋の風が この境内に届く頃、大銀杏は 静かに サラサラ サラサラっと音をたてて葉を落とし、やがて黄金色の絨毯を銀杏は自分の足下に円を描くように敷き詰めていく。
この葉が落ち始める日にちで、その年の冬が 暖冬なのか 寒くなるのかが分かるんだと、言ってた大好きな お婆ちゃんは、昨年の今頃、大銀杏が黄金色になる前に天国に行ってしまった。

「紅美、紅美」

⭕️⭕️に呼ばれて 紅美は はっと我にかえった途端、賑やかな祭りの人の楽しそうな声、屋台の呼び込みの声が、サァーっと波が押し寄せるように 脳に染み込んできた。

「何 ボ~っとしてんの?、、いつもの妄想(笑)」

「おばあちゃんの事を 思い出してた」

「紅美は、おばあちゃん子だったもんね」

「大銀杏見上げてたら、思い出しちゃった」

紅美が しみじみして話ながら 横をを見ると、⭕️⭕️は 違う方を じっと見ていた。

「⭕️⭕️、何見てんの?」

⭕️⭕️は紅美を サッと見て

「イケメン、ロックオン!」

そう言って 小さく笑った。

「ほら、あそこでカメラを構えてる人! ほら、見て見て」

急かされるように紅美は、⭕️⭕️の視線の方向を見た。

「ん?? あー、防波堤にいた人だ」

「えっ、前に言ってた?!」

「うん」

「あー、防波堤で パンツ撮られちゃったって言う??」

「撮られちゃっては、、なかったんだけどね」

「そうだっけ?パンツ ぐるぐるばっちり撮られたんじゃなかったっけ?」

「なに、その ぐるぐるばっちりって、、」

そして紅美は歩き出し、⭕️⭕️は
慌てて 後について歩き出した。

「こんばんは、楠木さん」

カメラを構えたまま楠木は 首だけをまわして 紅美たちの方をみた。

「あっ、市野さん、、、だっけ」

「なに?お互い名前まで知ってんだ?!」

「今日は何を撮ってるの?」

「祭りの空気感」

「空気感???」