「ジーン王子は確か2、3年前に婚約した筈だよ。 隣国のグレース王女と」



ビックリ。


こっちに来て一番ビックリした話かもしれない。あの人の隣に女性がいるところなんて想像できない。



「結婚はしないの?」

「まぁ、ほら。 この国って何かと落ち着かないでしょ? ジーン王子は力も強いから自ら戦場に行って指揮する事も多いし、タイミングが難しいんじゃないかな?」



なるほどね。納得。


王子様がわざわざ軍を指揮するなんて珍しいよね。バルドック王家の人間は決して前線へ出る事は無かった。戦場にいるのは常に訓練を受けた軍人だった。だから、戦場でどれだけの人達が血を流し、命を落としたのかなんてきっと知らない。


バルドック王家の人間もほぼほぼ居なくなってしまったけど……。



「ジーン王子はまた自ら戦場に赴くんじゃない?」

「え? また戦争が始まるの?」

「ここだけの話だけど、ベルギウス国が仕掛けてきそうって聞いた」

「そんな……」


何でそんなに争うの?傷つけ合って本当に得られるものなんてあるの?



「まだ確実な話じゃないけど覚悟してた方がいい」

「覚悟って……何を?」

「戦争が始まれば医師、そして私たち薬師にも召集がかかる。 戦場へ同行する事もあるから……」