「殴ってもいいよ」
恭介は心中を察したかのように、澪と向かい合って口元を怪しく吊り上げた。
「殴りたきゃ殴ればいい。でもそんなことしたら結局、澪も健二先輩とやってることは変わらねえな」
澪は腸が煮えくり返る思いだった。
歯を食いしばって拳を握りしめる。恭介の言っていることは正論だったけれど、もう我慢がならない。
すると恭介はいった。
「でもおれのことが嫌いなら殴ればいい。おれは殴られて当然の男なんだから」
顔を上げると、恭介は真顔になって澪をじっと見つめている。
さっきまでと様子がまるで違っていた。
澪は戸惑った。
彼の瞳の中で渦巻いている感情が何なのかはっきりとは分からないが、例えて挙げるならその瞳は悲しみに満ちていた。
「おれは殴られて当然の男なんだから」
その言葉に彼の強い意思を感じた。