「とにかく、おまえが健二先輩をどう思おうが勝手だけど、秋谷が先輩を選んだんだ。二人の関係に澪が口出すことじゃねえよ」

「だって…」


奈美の痣を見てから、澪は心配で仕方がなかった。

奈美は何も言わないけれど、もしかしたらあの痣は彼氏がやったんじゃないかと気が気でならないのだ。

それを恭介に言うと、彼は否定しなかった。

そして、


「自業自得」


ふいに呟いた恭介の言葉が耳に残った。


「…どういう意味?」


恭介は窓を見つめたまま動かない。

その目はどこか冷たかった。


「先輩を選んだのは秋谷。男を見る目がない秋谷の自業自得なんだから仕方ない」


手を握る拳に力が入る。


「あんた、その先輩が暴力振るう男だと知ってて、奈美に紹介したの?」

「…」恭介は黙った。

「そうなの?」

「仕方ないだろ。先輩には逆らえないんだよ」


一気に頭に血が上るのが分かった。

寝不足のせいか少しだけ気持ち悪い。

吐きそうだ。


「やっぱりあんたのほうが薄情な奴じゃない」


澪が睨むと、恭介も負けじと睨み返してきた。

鋭い眼。

少し身震いがしたが、澪は決して目を離さない。

だって許せない。

奈美はあたしの大事な友達だ。

彼氏のことを好いていることは近くにいてよく分かる。

それを暴力を振るわれていることを知った上で自業自得だなんて言葉で片付けられたら、いくら恭介でも許せなかった。