その時、澪は妙な違和感に気付いた。

奈美の細い腕に、あまり目立たないが初めて見る痣があった。


「それ、どうしたの?どこかで転んだ?」

「あっ」


奈美はなぜか慌てた様子で、せっかく捲った袖を戻した。


「なに?」

「ううん。そう転んだの。なんかいつの間にかできてて、なかなか跡消えてくれないんだ。嫌んなっちゃう」


ふふ、と奈美の八重歯が白く光った。

いつもと変わらない笑顔だった。


「そう」


澪は嫌な予感がした。

転んだ跡にしては少し大きい痣だと思うのは、単なる気にし過ぎなのだろうか。

それに、今日の奈美は少し変だ。

面倒臭がり屋の奈美がわざわざ反対方向にある澪の家まで来ること自体稀なのだ。

絶対何かがあることは確かなのだけれど。

それでも何も言わずに明るく振る舞おうとする奈美に、澪はただ黙っているしかなかった。