「芯がない? ……こっちもないみたいだ」
「これもないです。それも、これも……あっ、こっちもないです」

 引出しの中にあったボールペンの類(たぐい)は目に付くものだけで一〇本以上、ペン芯が入ってなかった。

 これはヒントなのか? それも違うのか?

 全部を確認するのはかなりの時間を要する。ここで時間を取られていては先に進む事は出来ない。

「とりあえず、このペンはおいて他のペンを――」
「あっ、これ使えそうです。それにこっちも使えますよ」
 と、一つのサインペンを取り上げた律子ちゃんが紙にペンを走らせていく。
 確かに書けているのだが、何故に俺の名前を書くかな……しかも、赤のサインペンで。
「それじゃ、そっちは任せたよ」
「あ、はい」

 俺は観葉植物の方を律子ちゃんに任せて他のヒントを解いていく事にした。

 まずはイカを考えようか……。

 律子ちゃんにもらった茶色のサインペンを使ってノートに『イカ』と『いどう』の文字を書いて睨めっこを始めた。

「…………イカ、いどう」

 見つめてもさっぱり分からん。

「えっと……『いちM差M摩』をローマ字になおして」

 小さく声に出してペンを走らせる律子ちゃんは、順番に観葉植物のプレートに描かれた文字を書き写していた。


 ……真面目だね。


 健気に頑張るうしろ姿を見ながら俺はノートに目を落とした。

 そこには俺が書いた茶色の文字が踊っているわけだが、目を凝らしてみると光の加減で紙がデコボコしているのが見えた。

「律子ちゃん、引き出しの中に鉛筆あった?」
「え? えっと……なかったと思いますけど」

 首を傾げている律子ちゃんに「ありがとう」と声を掛けて俺はもう一度デスクを調べ始めた。

 ただ、先ほどの引出しにあれだけのペンがあったので他にはある可能性は低いが、あと二つ引き出しがあるからそのどちらかに鉛筆が入っている事も祈ろう。