「お、おおっ……これは『ラベリア』のケーキっ」

 目を輝かせて箱の中を見つめる和音さんは子供のように感嘆の声をもらし、ケーキを一つ一つ箱から取り出していた。

 『ラベリア』とは前に変態部長が女の子を送り狼しようとして往復ビンタを喰らった駅前のケーキ屋の事で、女子生徒の間では「期間限定の手作りマロンケーキが今の一番お勧め」と評判になっていた。ただ、今は夏真っ盛りなのに秋の味覚である栗があるのか、おいしいのかは謎であるが。

 そして和音さんの新事実――それは辛党で大の甘党と言う事だった。

 三段重ねのチョコレートケーキを一人で完食した記録を持っているのは前から知っていたが、辛いものが好きなのはつい最近知ったばかりだ。

 和音さん曰く「辛いものと甘いものを一緒に食べても味は分かる」らしいけど、それは和音さんだけであって俺には真似出来ない芸当だった。

「どれから食べようかな……迷うなあ」
「好きなものから食べてください」
「どれも好きなんだよ」

 さすがは甘党と言うべきか、聞けば『ラベリア』のケーキは全種類(期間限定も含めて)制覇しているらしい。和音さんのサバサバした性格から甘いものというよりは日本酒とスルメ(未成年の飲酒は法で禁じられてますから駄目ですよ)って感じだが、こういう性格の人ほど甘いものや可愛いものに目がなかったりする。

「んーっ……おいしい」

 頬に手を当て、幸せに蕩けきった顔をしている和音さん。俺が回想している間に買ってきたショートケーキを半分以上食べていた。


 ……すごいな。


 更に四つ目に手を伸ばしてヘラっとだらしない顔でフィルムを剥いでいく和音さんは待ち切れないのか、フィルムをはぎ終わる前に手掴みで食べ始めた。