助けを求めるように俺に無言で手を伸ばす部長に十字を切って祈りを捧げ、踵を返したが――
「待ちなさい、伏峰」
 バッチリと呼び止められてしまった。

「…………ちっ、何ですか?」
「あなた、今『ちっ』って舌打ちしたでしょ! なんであなたみたいな人が翔様の付き人をしているのか……それから、主を置いて何故逃げようとするとは何事ですかっ」

 とんでもない勘違い発言をしている馬鹿娘は額に青筋を浮かべて唾を辺りに飛び散らせてご立腹の様子だが、何故に俺が怒られるのか理由がさっぱり分からなかった。

 で、先ほどから『馬鹿娘』とか『破天荒娘』とか呼んでいる目の前にいる変な女子生徒は、これでもこの七曜学園の副生徒会長にして――
「別に逃げてませんよ。偉大なる副生徒会長、田中花子様」
 政界にも顔が広く色んなものを牛耳っているという噂が絶えない大富豪の孫娘である。

「だーっ、人を区役所の記入例みたいな名前で呼ばないでちょうだい! 私は田之中華子(たのなかはなこ)ですっ。た、の、な、か、は、な、こ、っ」

 本人は否定しているが妙に庶民じみているところもあるので、からかって遊ぶと見事な漫才師ばりのツッコミをする一面も持ち合わせている。

「……大して変わりがないですけど」
「変わりますのよ! 『の』がないですし、あんたのイントネーションでは絶対に漢字で書いたら『花子』って言ってるでしょ。私には分かるのよ、私の第七感がビンビン反応してるのよっ」

 どこから取り出したのか分からないが、手に持ったスケッチブックに黒マジックで大きく『花子』と『華子』と書いてイントネーションと漢字の違いを力説する副生徒会長。


 ……さすがに馬鹿娘。


 第六感すら超越した第七感をお持ちとは恐れ入った。

 成績は学年の中で下から数えた方が早く、先生達も苦労しているようだが本人は超ポジティブと言うか、馬鹿でもめげない性格らしい。よく三年まで進級出来たという噂があるけど俺もそう思う。

 そして、高飛車な性格で一般生徒を『下民』と呼び、「お、ほほほっ」と、高笑いをするというゲームなどに出てきそうな嫌味な金持ちキャラを地でいく人である。