「はい、出来ましたよ」

 でも、なんで律儀に鍋なんか作っているだろうと思いつつ、和音さんの前に湯気の立つ鉄鍋を投げるように置いた。

「おおっ、キムチ鍋だあ」

 その鍋に嬉しそうに箸を伸ばす和音さんを俺は内心『リアクションに期待』と思って見ていたが、「熱っ」と言いながら平気そうに次々と食べていく様子に閉口してしまった。


 ……おそろしや、和音さん。


 世界で一番辛いと有名な唐辛子をメインに、国内で有名な和辛子とわさび、更にはブラックペッパー、その他諸々の世界の香辛料をブレンドした『特製世界の七味唐辛子』(何故、こんなものが部室にあるのかは謎)を丸ごと一本入れたのに、和音さんの顔色はまったく変わる事なく食べ進めている。

「はふ、はふ……ふううっ、さすがは智樹。いい味出してるよ」

 満足そうに親指を立てている和音さんに俺は苦笑いで答え、唐辛子の小瓶に目を落とした。


 ……この人、生きてるのか?


 そこには『死人も思わず生き返る! 痺れる脳髄直撃の辛さをとくと味わえ、コンチクショウッ』と、理解に苦しむキャッチフレーズが記されているが、目の前の光景に俺の背中には暑いのに流れ落ちていく冷たい汗が何とも言えず気持ち悪かった。